重要人物は北京に残して形だけ本社移転
人々が移転に二の足を踏む中、半ば命じられるがままに移転を進めた企業がある。
習氏の号令が最も効くはずの相手は、党と政府が直接統制する国有企業だ。果たして号令の下、移転は少しずつ進み始めた。
化学・エネルギー大手の中化控股と電力大手の中国華能集団がそれぞれ約1000人規模で本社を移し、通信大手の中国電信は最終的に約6000人規模の拠点を構えると、サウスチャイナ・モーニングポストは伝えている。
しかし、セマフォによれば、なかには本社を形式上移しただけで、実質的な勤務地をほとんど動かしていない企業もある。
都市計画学者のストコルズ氏はセマフォに対し、「本社を形式上は移した企業があっても、重要人物の多くは北京に残るか、行っても週末には戻ってくる」と指摘する。
それでも当局はあくまで強気だ。ブルームバーグによれば、移転が歓迎されるのは情報技術、バイオ医薬品、新エネルギー関連の企業で、当局が「伝統産業」と呼ぶ在来型の産業は排除の対象とされている。
「入りたい企業は多いが、我々は選別する」と、雄安新区の初代党委員会書記は2017年にサウスチャイナ・モーニングポスト紙に語っている。
北京郊外への配属は「キャリアの死」
企業さえ移転を渋るのはなぜか。
中国では中央の求心力が非常に強い。フォーリン・ポリシーは、普段は豪華な宿泊施設に慣れた地方の幹部たちが、党指導部の拠点である中南海を訪れる際には4人の相部屋さえいとわないと伝える。
中枢との物理的な距離が権力の大きさに直結する中国において、指導部と直接顔を合わせる機会は何ものにも代えがたいからだ。
したがって、北京の中心部から100キロ離れた雄安新区への移転など、幹部にとってはまるで割に合わない。フォーリン・ポリシーは、イギリスをはじめ他国でも政府機能の分散は難航してきたと指摘する。公務員の間で、首都外への配属を「キャリアの死」と捉える見方が強いためだという。
北京の国有建設会社で働く30代前半の建築士は、「移れば人脈をゼロから作り直すことになり、教育や医療の面でも長い間、北京には及ばないでしょう」とサウスチャイナ・モーニングポスト紙に語る。
都市計画が専門のキャンベラ・ビジネス・スクールのリチャード・フー教授はよりはっきりと、「雄安から北京への移住は上向きの移動だが、北京から雄安への移住は下向きの移動だ」と評した。
仮に政府機関の一部を物理的に移すことはできても、権力にまつわる概念を変えることははるかに難しい。

