英サッチャー元首相が行った「声の設計」
リーダーの「声」は、話の内容以上に「印象」を左右する。ここに性別は関係ありません。どれほど正しいことを言っていても、声の高さ、出だしのトーン、話すスピード、間の取り方で、言葉の重みや信頼感が大きく変わります。
スピーチにおける声の役割は、メッセージを届ける上で切り離せない要素なのです。
実際、私の元には、これまでも「声」に悩む女性リーダーが数多く訪れました。
・極めて優秀なのに、「〈アニメ声〉と言われて悩んでいる。落ち着いた声で話したい」という大手企業の管理職
・「〈甘えた声〉と言われるのが嫌。私ってそんなに物欲しそうでしょうか」と話す、語尾が上がる癖のある外資系企業のリーダー職
いずれも能力や実績の問題ではなく、ただ、声の印象だけで、本来の評価が歪んでしまっていることへの切実な悩みでした。
「声が甲高い」「語尾が上がる」「声がこもって聞こえる」
こうした「声の印象」の重要性に早い段階で気づき、戦略的に向き合ったリーダーが、イギリス初の女性首相となったマーガレット・サッチャーです。
若い頃のサッチャーは、議会では甲高い声でまくしたてていたとされ、「スクリーチ(金切り声)」と揶揄されるほどでした。「鉄の女」と呼ばれたイメージとはほど遠く、当時は、「説得力のある声」とは言いがたかったようです。
首相選挙に出馬することを決めたときに、彼女はその課題を克服するため、発声や話し方の専門的なトレーニングを受ける決断をしました。
「声質」ではなく「声の印象」を変える
メリル・ストリープがサッチャーを演じた映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(原題:『The Iron Lady』)では、サッチャーが専門家からボイストレーニングを受ける様子が描かれています。
発声指導を受けながら、声の高さを一つひとつ調整していくシーンは印象的です。「一番の問題は声だ。甲高すぎて重みがない」と指摘された声は、地道なトレーニングによって、見事に力強い声へと変わっていきます。
サッチャー元首相は、声質そのものが別人になったわけではありません。出だしの声の高さ、間、強弱、テンポといった「声の印象」を変えることで、意図的に言葉の重みを増し、相手からの信頼を引き出すことに成功しました。
心をつかみ、人を動かすスピーチには、必ず「声の設計」があります。声は個性ではなく、リーダーのメッセージを確実に相手へ届けるために必須のものなのです。
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