田中角栄の「ダミ声」が与える信頼感

その格好の例が、田中角栄元首相の声でしょう。

田中角栄氏の声は、しばしば「ダミ声」と表現されます。しかし、実際には、単に濁った声ではなく、高周波成分を含んだ、非常によく通る声だったそうです。

語気は強く、決して柔らかな話し方ではありません。それでも角栄氏の声は、まっすぐ相手に届き「信頼できる」という印象を与えました。

その背景には、幼少期の経験が関係しているとされています。角栄氏は、ジフテリアの後遺症で吃音の症状があり、それを克服するために浪花節、いわゆる浪曲の練習を重ねたのだそうです。

浪曲は、腹式呼吸で体全体を楽器のように鳴らしながら発声し、語る話芸です。特に、母音を明瞭に立てて語る発声が重視されるため、子音ではなく、【「あいうえお」の母音+「ん」】を大きく、前に出す発声を徹底します。

言葉の輪郭がはっきりし、聞き取りやすい

たとえば、

「〽めでたや めでたや 佳き門出」

という言葉も、

「〽めぇでぇたぁやぁ~ めぇでぇたぁやぁ~ よぉき かぁどぉでぇ~」

と、母音を立てて語られます。

これによって、言葉の輪郭がはっきりし、驚くほど聞き取りやすくなるのです。

実は、人の耳が最も敏感に反応し、「聞き取りやすい」と感じるのは、およそ3000Hz前後の周波数帯だとされています。この帯域にあると、言葉が明瞭に聞こえる一方で、この帯域から外れると声がぼやけて、遠くまで届きません。

角栄氏もまた、浪曲トレーニングによって、言葉の芯となる周波数が明確な声へと鍛えられていったと考えられます。その結果、語気が強くても、感情的に拒まれにくく、遠くまで届く声になったのでしょう。

人間の耳元と音声波形のクローズアップ
写真=iStock.com/Jun
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リーダーの評価は、言葉の前にまず声で決まる。

この事実を認識することが、信頼される話し方への第一歩となります。