業務に充実感があるのになぜ脳萎縮が進行したか
“脳の健康”を保ちたい。もちろんできれば認知症になりたくないし、いつまでも元気でいたい。だから脳に良いことをしたいと誰しもが思う。
だが明らかな脳疾患を除き、「脳が健康である」とは、つまりどのような状態なのか? 例えば体の重さに関しては、体重計に乗れば自分の体重の増減を数キロ単位で確かめられ、国際的な基準によるとBMI(体重キログラム÷身長メートル÷身長メートル)30以上が肥満である。同様に血圧も血圧計によって測定できる。けれども脳については「認知症か否か」といった見方しかなく、体重のキログラム、血圧のmmHgに値する測定単位がなかった。
それを開発したのが、安倍晋三首相時代の内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の研究グループだったという。中心的な役割を担った山川義徳氏(京都大学経営管理大学院特命教授)は「脳の状態をIQのようにわかりやすく、また血液検査のように多次元の数値として表現したいと考えました」と説明する。
「単位を作るには、その単位がどういう分布になっているか、“平均的な脳の傷み具合”はどこにあるのかを探すところに難しさがあります。身長を例にすると、高い人も低い人もいますが、その中で男女それぞれの平均的な身長があるわけですよね。同じように脳も分布を作り、平均的な傷みを100として、それを下回れば萎縮が進んでいる、脳の機能が低下しているとしました」(山川氏、以下同)
脳計測装置として知られる「MRI(磁気共鳴画像法)」を使用し、当初は150人程度の脳を測定した。
そうして脳の健康管理指数として開発されたのが、「B H Q =BrainHealthcare Quotient」だ。次に、これを国際標準規格として承認を得るまでに苦労があった。
「国連の専門機関で、国際標準の策定を目的としたITU(国際電気通信連合)から、国際標準規格としてBHQが承認されれば、この行為をすればBHQが上がる(脳の健康に良い)、BHQが下がる(脳の健康に悪い)といった行為を世界中でシェアできます。例えばYouTubeの動画の視聴時やアップロード時のコーデック(双方向に記録・閲覧できる装置やソフトウエアなど)に推奨される一つのH.264も、ITUに承認されているので、世界中で音声や動画を交換することができるわけです。BHQも2018年に、H.861として承認されました」
ここまでプロジェクトがスタートして4年の月日が経っていた。
さて実は、このような仕事をしている時、山川氏自身の脳が傷んでいたという。衝撃的なMRI画像とBHQの値を見せてもらった。
「残念なことに私たちの脳は誰でも20歳から年々傷み、BHQでは1年間に平均して約0.5ポイントずつ低下していきます。この程度の下がり具合であれば加齢により仕方ない面がありますが、私の場合、13年から15年は2年で6年分、15年から16年は1年で4年分、そしてそこから1年半で2年分も脳萎縮が進んでいる、つまり脳の健康状態が悪化していたのです。内閣府の仕事に取り組んでいる時期ですが、自分としては国際標準化に向けて業務に邁進し、充実感がありました。しかし、脳は耐えられず悲鳴をあげていたのです」
ここから先は有料会員限定です。
登録すると今すぐ全文と関連記事が読めます。
- 広告最小化で快適な閲覧
- 雑誌『プレジデント』が最新号から読み放題
- ビジネスに役立つ学びの動画が見放題
- 会員限定オンラインイベント
検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます


