EVを増やしていけば自ずと電力の消費量が増えることになるが、そのための電力を賄うため発電手段をEUは確保することができるのだろうか。電力は経済活動全般の血液であるため、EVにだけ振り分けるわけにはいかない。走行時発電型EVの実用化はまだまだ先の話だから、発電量を増やせない以上はEVの普及にもブレーキがかかる。
電力不足の次に待つ中国依存
再エネ発電に関しては、発電機自体の不足よりも、送配電網(グリッド)の不足が叫ばれて久しい。例えばドイツやイタリアでは再エネの“南北問題”(発電地帯と消費地帯がずれていること、ドイツでは北部のバルト海が、イタリアでは南部の地中海が発電地帯となる)を抱えており、その解消には依然として時間を要する見込みである。
そもそも再エネ発電は、その出力が天候に大きく左右されるという問題がある。今年の欧州は酷暑に伴う水不足や干ばつに見舞われており、水力発電が不調である。またオメガブロック(停滞性の高気圧)の影響で風も吹かず、風力発電も厳しい状況だ。石油不足でEV人気が高まったが、電力不足に伴う電気料金高が顕在化する恐れがある。
電力供給の天井を引き上げるためには、石炭火力の再開が最も即効性のある手段だろう。実際、今般のイラン発のエネルギーショックをきっかけにアジア各国でもEVの普及が進んでいるが、同時に石炭火力回帰の流れが強まっており、EVが石炭火力由来の電気で走る、脱炭素化の旗手を自認するEUにとっては実に皮肉な展開となっている。
それに、EVを本気で普及させるためには、なにより中国との付き合い方を再考する必要がある。EVの生産には、いわゆるレアアース(希土類元素)に代表される希少な鉱物が不可欠だ。その供給を一手に担っているグローバルサプライヤーが中国である以上、敵対することは得策ではないはずだが、EUは中国に対して敵愾心を露わにする。
安い中国車を拒む高い代償
EVの原材料のみならず、完成品という観点からも、EUは中国に対して厳しい姿勢で臨んでいる。中国製EVの価格が政府による支援のもとで不当に引き下げられているというのがEUの主張だが、物資ともに勝る中国がEVを安価に生産できることは、比較優位説に基づけば当然の帰結だ。むしろ中国製EVを受け入れた方が合理的だ。
なぜなら、価格競争を通じてEU域内製のEVの価格も下がり、価格の低下がEVの普及を後押しするためである。市場経済における競争原理そのものだが、幼稚産業保護論的な立場から市場保護に努めたいEUは、そうした自由な競争に対して実に消極的だ。しかし、生産性の改善につながるイノベーションは競争を通じてしか生まれない。

