「正直に言ってくれるのは君くらいのものだ」
会長が心を開く理由は、この直言だけではなかった。その後も小松が別件で頼み事があり、直接会長のもとを訪ねたことがあった。その時に告げられた言葉を、小松は忘れていない。
「あなたの何が良いかって、こういう重要なことを、直接僕に頼みに来てくれるところだ」
小松にすれば当然の作法だった。「これほど大事なことなら、自分で直接足を運ぶのが筋でしょう」。そう返すと、会長はこう続けたという。
「いや、それでも僕の前に来て、ここまで正直に言ってくれるのは君くらいのものだ。みんな何かの思いがあっても、間に何人もの人を挟んでくる。僕のところに話が届く頃には、大元の思いが何だったのか、すっかり分からなくなっている」
大企業の頂点にいる会長には、幾重ものフィルターを通してしか声が届かない。だが小松には、そうした立場のしがらみがなかった。
「私には組織特有のしがらみがありません。真剣に相談すべき時ほど、誤解されたくないし、フィルターもかけたくない。だからこそ直接、自分の目で見て頼みたいのです。頼みにくいことこそ、相手の目を見てお願いするべきだと思っています。重要なこと、避けたい問題から逃げてはいけません。最も難しい課題だからこそ、直接自分の言葉で、フェイス・トゥ・フェイスで伝えるべきなのです」
技術力でも、契約条件でもない。人としての誠実さと率直さこそが、二人の関係の土台になっていた。
文化をつくるには「交流と継続」が不可欠
高校からラグビーを続けてきた小松は、イギリス留学時代に「本当のノーサイド」を知る。所属した弱小クラブにも芝生のグラウンドが5面あり、立派なクラブハウスがあった。試合後は敵味方なく泥で濁った湯船に浸かり、そのまま敷地のパブで朝方まで飲み明かす。
「それが『文化』です。日本のラグビーは試合単体で終わってしまう」
この経験は、小松がモータースポーツに懸ける思いにも直結している。単発のイベントや一度きりの好成績ではなく、勝っても負けてもプロセスを積み重ね続けることでしか、本当の文化は根付かない。
「日本にモータースポーツの文化を作るためには、交流と継続が必要です。ずっと続けて、人を育てなければ文化は生まれません。それが我々のできることだし、やらなければいけないこと。この思いを、2人は共有しているのです」

