入居者で最も多かったのは意外にも50代
人が集まり始めると、もう一つ意外な発見があった。どんな人が、この場所を選んだのかという点だ。
「当初は、30代を中心としたクリエイターが多いと見込んでいたんです。ところが最も多かったのは50代の方々。多くは都内の企業などで働きながら、休日や仕事終わりに店を開いたり、作品づくりをしたりする“もう一つの仕事”を持つ人たちです」
こうした背景には、働き方や価値観の変化もあると松島さんは見る。
「コロナ禍を経て、『会社だけではなく、自分が本当にやりたいことにも時間を使いたい』という人が増えたと感じます。
それに、今はSNSでの集客が効果的です。こんな場所でも自分で発信すればお客さんは来てくれる。昔のように『駅前だから有利』『郊外だから不利』という時代ではなくなってきていると感じています」
月見台住宅に集まったのは、単に安い家賃を求める人々ではなく、“自分らしい暮らし方”を実現できる場所を探していた人たちだったのだ。
月見台の再生手法は木更津の社宅へ
一方で松島さんは、「この手法がどこでも通用するわけではない」と冷静に語る。
「人口減少が進むなか、すべての空き家を再生できるとは思っていません。それでも、『こういう暮らし方ならやってみたい』と思う人は、地域を越えて必ずいる。その人たちと出会い、巻き込めるかどうかが大事なんです」
その考え方は、すでに他地域にも広がり始めている。月見台住宅を視察した企業から相談を受け、現在はJR東日本が千葉県木更津市に保有する社宅の再生プロジェクトも進行中だという。
月見台住宅の構想から4年。松島さんが一貫して考えてきたのは、建物をどう直すかではなく、人が集まり、「自分も関わりたい」と思える場所をどうつくるかだった。
「価値がないと思われているものでも、多くの人が関わり、一緒に考え、行動することで再生できる。そういう事業がもっと世の中に増えてほしいと思っています」
――築65年の団地を再生したのは、建物ではなく、「関わる人」を増やす仕組みだった。月見台住宅が示したのは、空き家再生のノウハウではなく、人を巻き込みながら地域の価値を育てていく、新しいまちづくりのモデルなのかもしれない。


