「私たちは、この土地にはすごくポテンシャルがあると感じたんです。20年ほど不動産仲介をやっていますが、平屋への憧れを持つ人は一定数おり、実は平屋はお客様の反応がかなりいいんです。古い建物の雰囲気を好む人もこの横須賀エリアには必ずいると考えていました。
この団地には“道路幅員が狭く建て替えも難しい”という制約がありますが、私たちは最初から団地の建て替えを前提には考えていませんでした。
今ある建物を活かす再生――。マンションを建てる事業者ではなかったからこそ、このノスタルジックな景観や、平屋ならではの魅力に価値を見いだせたのだと思います」
横須賀市が“最も活用が難しい”と見放していた物件は、松島さんたちにとっては“最も可能性を感じる物件”だった。月見台住宅の再生は、この“価値の見方”の違いから始まっていく。
住宅地なのに店を開ける「なりわい住宅」
月見台住宅を再生するには、まず横須賀市が実施する提案型公募“プロポーザル”を通過しなければならなかった。
「横須賀市所有の物件ですから、『なぜこの事業者に貸すのか』という理由が必要です。提案型公募は、どう活用するのか、どんな価値を生み出すのかを事業者側が提案し、その内容を審査員が評価して事業者を選ぶ仕組みでした」
そこで松島さんたちが最初に向き合ったのが、この団地ならではの都市制約だ。
月見台住宅は「第一種低層住居専用地域」に指定されている。住宅地としての環境を守るための用途地域であり、商業地域のように店舗や宿泊施設などを自由につくることはできなかったのである。
「第一種低層住居専用地域は、基本的には住宅しか認められていません。普通に考えれば、住宅として貸すしかないんです。しかし法律を読み込むなかで、一つの可能性が見えてきました。
住宅地にお豆腐屋さんやお肉屋さんがあるように、暮らしに必要な小さな商いは法律上も認められているんです。住宅を兼ねた店舗などについては、店舗などの非住宅部分が50平方メートル以下、かつ建物全体の床面積の2分の1以下という条件はありますが、店舗兼住宅として『住みながら商う』ことはできる。
コロナ禍を経て、『自分の店を開きたい』『作品づくりをしながら暮らしたい』という声を、多く聞くようになっていましたが、そういう人たちに合う物件は意外と少ない。しかしこの団地なら、そういったニーズに応えながら、古い建物を自分らしくデザインしつつ、仕事も暮らしも一緒に楽しめる場所にできるのではないかと閃いたのです」



