100件の仮申し込みが銀行を動かした

その反響は、プロジェクトに携わるメンバーの不安を自信へと変えたという。

「最初は、本当に入居していただけるのか正直不安でした。でも、募集を始めるたびに予定していた戸数がきちんと埋まっていった。そこで初めて、『このコンセプトは間違っていなかった』という手応えを感じました。

そして、マルシェで集まった約100件の仮申し込みが、『これだけ入居を希望する人がいます』という何よりの裏付けになりました。銀行もその反響を見て、『そこまで需要があるなら』と判断してくださり、最終的に融資を受けることができたんです」

2024年交流会の様子
画像提供=エンジョイワークス
2024年に開催された交流会の様子。入居希望者が多く集まったことで銀行を動かすことができた

改修に要した費用は全体で約3億1500万円。この資金は、269人が参加したクラウドファンディングによるファンド出資、金融機関からの融資、国土交通省の空き家対策モデル事業、横須賀市による支援を組み合わせて調達したという。

この資金調達には「お金を集める以上の意味」があったと松島さんは話す。

「銀行から一括で借りたほうが手続きはずっと楽です。しかし、私たちは資金調達そのものを、『いかに多くの人に関わってもらうか』という仕組みだと考えているんです。

所有権がなくても、『この街を応援したい』『自分も関わっている』という“大家さんのような気持ち”を持つ人が増えれば、それが街の持続可能性につながる。『いいね』と思った人が、実際に行動まで起こせる仕組みをつくることが、街づくりでは大切だと思っています」

5年間ゼロだった家賃収入が年5000万円に

約5年間、誰も住まないまま時が止まっていた月見台住宅。

しかし、再生プロジェクトが動き出すと状況は一変する。工事着工から半年あまりで入居を開始し、2025年7月には入居率9割を達成。また2026年5月には47戸すべてが埋まり、いまでは年間約5000万円の家賃収入を生んでいる団地となった。

集会所にはそれぞれのお店のチラシや名刺が並ぶ
筆者撮影
集会所にはそれぞれのお店のチラシや名刺が並ぶ

もっとも、この約5000万円がそのままエンジョイワークスの利益になるわけではない。

住戸は「第1期ファンド」「第2期ファンド」「エンジョイワークス本体」の3つに区分されており、ファンド対象住戸の家賃収入は、運営費や融資返済などを差し引いたうえで、クラウドファンディング出資者への分配原資となる。

一方、エンジョイワークスは本体区分の賃貸収益に加え、ファンドの組成・運営に伴う報酬を得る仕組みだ。

月見台住宅のマップ
筆者撮影
月見台住宅のマップ

松島さんは、事業全体を長期的な視点で設計していると話す。

「この事業は、物件を売却して利益を得る“売却益型”ではなく、家賃収入を積み上げていく“インカム型”です。資金ごとに回収の考え方は異なりますが、全体としては10年ほどのスパンで事業を設計し、利益を見込んでいるビジネスモデルです。ただ現在は想定よりだいぶ早く入居率100%となったこともあり、事業は当初の予定より前倒しで投資回収の段階に入れるのではないかと考えています」