「普通に暮らしたい」という希望者は断った
その構想を形にするため、松島さんたちはさらに“ヴィンテージ&クリエイティブ”というコンセプトを打ち出した。
「この建物を“ヴィンテージ”だと捉えてくれる人でないと、単に“ボロボロの市営団地”だと思われてしまいます。そのため、『こういう古いものがいいよね』と思える人、さらにクリエイティブな発想で新しい場をつくれる人にだけお貸しする、というこの団地の価値になりうるコンセプトをより強化しました」
実際、「生業はせずに普通に暮らしたい」という希望者もいたそうだが、どれほど気に入られても断ってきたそうだ。
こうした“なりわい住宅”と“ヴィンテージ&クリエイティブ”という提案が評価され、エンジョイワークスはプロポーザル(公募)で競合した数社のなかで最優秀評価を獲得。月見台住宅の再生事業者に選ばれた。
しかしその後、松島さんたちに、さらなる大きな壁が立ちはだかることとなる。
銀行には「この建物には価値がない」と断られた
プロポーザルで最優秀評価を獲得したことで、事業はようやくスタートラインに立った。だが、松島さんは「本当の勝負はここからだった」と振り返る。
「このプロジェクトの最大の壁は資金調達でした。コンセプトには自信がありましたが、それを裏付けるエビデンスが何もなかったんです。銀行の担当者の方に、『この建物には価値がありません』とはっきり言われました。
銀行から見れば、そう判断するのも無理はないでしょう。最寄りのJR田浦駅は利用者が少なく、団地は坂の上で利便性が良くない。リノベーション後は家賃5万3000円~で貸し出す計画だったのですが、その時点では建物の内装すら完成していません。
銀行から見れば、『そんな条件で本当に入居者が集まるのか』という話だったのでしょう。実際、相談した銀行にはすべて融資を断られました」
お金より先に「入居したい人」を集めた
そこで、プロジェクトを前に進めるには、この場所に価値を感じ、“関わりたい”と手を挙げてくれる人を集めることが何よりも先決だった。
「まずは『参加したい』『ここで何かやってみたい』と言ってくださる人を増やすことが、一番重要だと考えました。そこで開催したのが、月見台住宅の未来を体感してもらうためのマルシェです。
自転車修理店や飲食店など、“なりわい”を実践する人たちに出店していただき、将来この場所がどんな街になるのかをイメージできる場をつくりました。同時に、入居希望者向けの説明会も開催したのですが、数十人くらい来てくれたら十分だと思っていたところ、毎回数百人が来場し、仮申し込みだけで100件近く集まったんです」





