浙江省のある業者が話した意外な事実

実際に浙江省・金華の業者に接触してみた。イチゴだけでなく、日本の柑橘類の苗木を幅広く販売し、「愛媛28号(紅まどんな)」なども扱う業者だ。

その業者は「品種は正真正銘の本物。自分でしっかり肥料をやって農薬に気をつければ美味しく育つ」と育てやすさを強調していた。さらに、シャインマスカットや日本のイチゴの苗をどのくらい取り扱っているのかを聞くと「全部の品種が揃っている」と豪語した。しかし、イチゴの苗の販売には条件があった。

「イチゴは卸売りしかやっていない。数株ぽっちじゃ売らない」

そう、彼らは、個人の園芸客を相手にする末端の転売ヤーではない。背後には、一獲千金を狙う現地の商業農家たちに大量のクローン苗を供給する、巨大な卸売りネットワークが存在している。なぜこれほど多様な日本の品種を仕入れられるのか、そのルートについて尋ねると、業者は当然のようにこう言い放った。

「専門の農業部門が(日本から)苗木を導入して、研究開発しているんだ」

このことからもわかるように、日本から持ち出された苗木は、それなりの規模の機関により研究・クローン増殖されており、こうした事態は単なる一部の悪徳業者の仕業にとどまらず、組織的な供給システムによって引き起こされているのである。

日本の苗木を販売している業者とのメッセージのやり取り。
著者提供
日本の苗木を販売している業者とのメッセージのやり取り。

農産物の知財防衛の難しさ

こうした巨大な組織的供給システムを前に、日本の行政はどう対応しているのか。もちろん、国や自治体も手をこまねいているわけではない。

農林水産省は、農産物の知財防衛を重要課題に掲げている。例えば「紅まどんな」を開発した愛媛県などは、無断栽培を科学的に立証するためのDNA鑑定技術の導入や、海外での品種登録(育成者権の取得)の推進に力を入れている。

しかし、現場が抱えるジレンマは極めて深い。海外での品種登録には、出願する国ごとに多額のコストと数年の歳月がかかる。開発を終えてから出願手続きをもたもたしている間に、相手国で少しでも流通の実態ができてしまえば、後から権利を主張して販売を差し止めることは事実上不可能になる。

先にも述べたように、相手は「専門の農業部門」という機関の関与すら示唆される巨大なネットワークだ。これまでの日本の手続きのスピードでは、彼らがクローン技術を用いてすぐに増殖させ、市場を埋め尽くす速度に到底太刀打ちできない。