コアなファンに刺さる「D2C戦略」がアダに

スポーツシューズの世界で抜群の人気を誇っていたナイキが、大きく失速している。2024年10月に発表された25年5月期の第1四半期(6〜8月期)の決算では、売上高が前年同期比10%減、純利益は28%減となり、ジョン・ドナホーCEOが退任。通期の業績見通しも撤回される事態となった。

ナイキは17年以降、小売店への卸を大幅に減らし、「D 2 C(Direct toConsumer)」へ舵を切っていた。D2Cとは、卸売や小売事業者を通さず、メーカーから消費者へダイレクトに販売する手法のこと。人気商品の多くを自社ECサイトと直営店のみで販売するナイキのD2C戦略は、コロナ禍で対面活動が制約を受けるタイミングと重なったこともあって、一時はメディアなどでも高い評価を受けていた。

ところが、ナイキの商品のみが並ぶECや直営店では、他メーカー商品との比較検討ができない。初めからナイキを買おうと決めているコアなファンならともかく、さまざまなメーカーの商品を見比べてから購入したい一般ユーザーにとっては、小売店に並ばないナイキの商品は選びにくくなった。

ナイキの業績不振の理由のひとつが、D2C戦略一辺倒で進めてきた結果であることは明らかだろう。もちろんコアなファンが多いというナイキの商品特性を考えれば、戦略そのものが間違っていたとはいえない。しかしながらD2Cに傾注しすぎたことで、一般ユーザーにアピールする卸販売がおろそかになり、消費者の買い物心理にうまくリーチできなかった点は否めない。

また、ナイキには「D4C(Directfor Consumer)」、すなわち〝消費者のため〟という視点が欠如していた。デジタル化を成功させるためには、「カスタマーセントリック(顧客中心主義)」であることが必要なのだ。

ナイキと同じく「デジタルネーティブ」ではない企業でも、成功事例はある。例えばユニクロはリアルとデジタル、オンラインとオフラインを組み合わせる「オムニチャネル」の戦略を効果的に採用し、成功している。

ユニクロは多様なアプローチでオムニチャネルに取り組んでいる。例えば、ウェブ限定商品を多数用意し、店舗内に案内を表示してECサイトへの誘導を図っている。反対にECサイトで購入した商品も店舗での受け取りや返品が可能。このほか、SNSを活用した情報発信などにも力を入れており、店舗、EC、SNSを融合させたオムニチャネルを推進してきた。

ユニクロの店舗入口
ユニクロは店舗、EC、SNSそれぞれを活用して顧客とリアルとデジタルの両方でつながっている。

顧客の視点に立ち、購入はもちろん検討段階から「リアル/デジタル」「オンライン/オフライン」を自在に選べるようにしたことが、ユニクロがデジタル化に成功した要因だ。本連載で以前取り上げたウォルマートも、「カスタマーセントリック」の重視によってデジタル化を成功させた好例だ。全社を挙げての社員教育やDXへの取り組みが実を結んでいる。ユニクロ、ウォルマートの両社が取ったデジタル化の考え方と施策の中に、ナイキはどうすればよかったのかという問いへの明確な回答があると私は考える。

消費者がある商品を購入したとする。その際、消費者はどのような方法で商品をリサーチしたのか。商品を店舗で買ったのか、ECで買ったのか。その商品は対面で受け取ったのか、宅配ボックスで受け取ったのか、あるいは店舗やコンビニで受け取ったのか。さまざまなパターンが考えられる。

まず検討と購入のフェーズを見ていくと、①オンラインでリサーチしてオンラインで購入した、②オンラインでリサーチして店舗で購入した、③店舗でリサーチして店舗で購入した、④店舗でリサーチしてオンラインで購入した、という行動パターンがある。もちろんそれ以外の雑誌や広告といったメディアで調べ、購入に至るケースもあるが、大きく分ければこの4つだ。

(構成=斉藤俊明 写真=時事通信)