貧困出身のエリートはかつて「反トランプ」だった

トランプ米政権の中でJ・D・ヴァンス副大統領の存在感が高まっている。

2025年2月、ヴァンス副大統領は就任後初の外遊でフランスとドイツを訪問。ミュンヘン安全保障会議に出席し、「欧州にとって最大の脅威はロシアでも中国でもなく欧州内部だ」「欧州の指導者は言論の自由を抑圧している」などと厳しい批判を展開した。

また、ホワイトハウスで行われた米ウクライナ首脳会談では、メディアの前でウクライナのゼレンスキー大統領に対して「一度でも米国に『ありがとう』と言ったことがあるのか」と激しく迫り、一時緊迫した。

米ウクライナ首脳会談に臨むトランプ米大統領(中央)とヴァンス副大統領(右)、ウクライナのゼレンスキー大統領。
米ウクライナ首脳会談に臨むトランプ米大統領(中央)とヴァンス副大統領(右)、ウクライナのゼレンスキー大統領。

2つの象徴的な出来事の背景には、何があるのか。過激にも見えるヴァンス氏の言動を分析することは、ドナルド・トランプ大統領の今後4年間を理解するうえで非常に重要だといえる。

まずはヴァンス氏が16年に発表した、全米で300万部を超えるベストセラー回想録『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』から、彼の生い立ちと価値観を読み解きたい。

ヴァンス氏は1984年、オハイオ州ミドルタウンの労働者階級の家庭に生まれた。『ヒルビリー・エレジー』には、彼が「ラストベルト地域(錆びた工業地帯)」で生まれ育った経験をもとに、経済的な衰退と社会的な崩壊がどれほど地域住民に影響を与えたかが書かれている。また、同書には次のような記述がある。

「驚嘆すべきは、さまざまな世論調査の結果、アメリカで最も厭世えんせい的傾向にある社会集団は白人労働者階層だという点である」

ヴァンス氏は、白人労働者階級に広がる絶望感と、それがどのように社会不安や薬物依存、犯罪に結びついているのかを詳細に記している。

貧困と低教育水準にとり囲まれた環境から抜け出すのは極めて困難であり、物理的、心理的な障壁が多い。ヴァンス氏自身は、家族や宗教が直面した困難を乗り越える支えになったとしている。ヴァンス氏の祖母は「自分に可能性がないと思ってはいけない」と励まし、それが彼の基盤となった。

ヴァンス氏にとっての転機は、高校卒業後に海兵隊へ入隊したことだ。海兵隊での経験によって自信をとり戻し、潜在能力を開花させた。除隊後はオハイオ州立大学に進学し、優秀な成績で卒業。さらに、名門イェール大学のロースクールに進み、13年に法務博士号を取得。シリコンバレーでベンチャー投資家としても活躍した。

(構成=プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信)