1年の半分は南アフリカに滞在
2017年1月15日。佐藤さんはあと2週間で40歳になるタイミングで南アフリカへ戻り、アディさんとヤスパーさんのほか、出稼ぎ労働者10人弱や地元の労働者2人と一緒にひたすら作業した。
ワイナリーの多くはブドウの栽培を農家に任せ、実ったブドウを購入してワインを造っている。ただし、ブドウの収穫は自分たちでおこなう。ワイン造りを始めるには、収穫前にさまざまな準備を済ませなければならない。数えきれないほどたくさんの樽を転がして朝から夕方まで洗う日もあれば、タンクに塗ってある樹脂をひたすら剥がす日もあった。
ブドウの糖度が上がって収穫の時期が迫ってきたとき、アディさんは「オマエの畑はどうする? いつやるんだ?」と言った。当然、佐藤さんは何をどうすればいいか分からない。ヤスパーさんについて回り、なんとかワインの醸造を進めた。
1月から3月までは収穫や醸造で忙しい。しかし、ワインを樽に入れた後はしばらく熟成させるため、ずっと南アフリカに滞在し続ける必要はない。澱の処理、ブドウ畑の剪定、ボトリングなどのタイミングに合わせ、佐藤さんは南アフリカと日本を行き来するようになった。
「数カ月に1回は寝かせているワインや畑を見ておかないと。いまも年180日は必ず南アフリカへ行きます」
2017年から5年で生産量は8倍に
2017年、佐藤さんは1000本のワインを造り上げた。佐藤さんのブランド「Cage Wine」の誕生だ。「Cage」の「C」には南アフリカのケープ地方(Cape)、「A」には師匠のアディさん(Adi)、「G」には自然からの贈り物(Gift)、「E」には地球(Earth)という意味を込めた。
アディさんから借りた畑のブドウの木は、針金を使わずに低く自立させる「ブッシュ・ヴァイン(株仕立て)」と呼ばれる方法で栽培されている。南アフリカワイン特有の味わいは、ブッシュ・ヴァインだからこそ出せるものだ。樹齢が高いブッシュ・ヴァインに実るブドウには、南アフリカの土地の個性が特に凝縮されている。
「Cage Wine」は2018年に1000本、2019年に1600本、2020年に2200本と着々と生産本数を伸ばし、2021年は一気に8100本まで増産した。その背景には、新型コロナウイルスの影がある。
市場が動かず、ワインを輸入するインポーターも身動きが取れない。レストランからの注文も極端に減った。パンデミックによるロックダウンで、そもそも佐藤さん自身が南アフリカに半年以上も足止めされていたという。
世の中全体が行き詰まるなか、アディさんだけは違う方向を見ていた。





