県知事以上の権力を持つように
こうした背景から、藏内氏が率いてきた自民党県議団は、次第に「藏内県議団」の様相を呈してきた。そのため福岡において県議として出世していくには藏内氏の覚えがめでたいことが条件となった。政策発表会や選挙の演説を県議が行う際、必ずと言っていいほど、藏内氏礼賛の言葉を口にする。県議が皆、なんとか藏内氏に好かれようとして、とにかくゴマを擦るのだ。
当時、県政を担当していた記者が「ほぼ全員が挨拶で藏内さんを礼賛するので、そういう決まりがあるのかと思いました」と話すほど、一様に藏内氏を持ち上げたのだ。
次第に藏内氏は知事と同等、もしかするとそれ以上の力を持つと言われるようになっていった。
その一例が2017年の九州北部豪雨によって寸断されたJR日田彦山線の復旧問題である。当時、小川洋知事は「鉄道復旧に向け、職を賭す覚悟で臨む」と議会で発言し、地元自治体にも約束した。
ところがJR九州はクビを縦に振らない。日田彦山線はもともと赤字路線で、復旧には莫大な費用がかかり、採算が取れないからだ。鉄道を復旧できなかった責任を追及されるも、それをかわそうとする小川知事の答弁に自民県議が反発し、議会は荒れた。
その時に鉄道復旧を願う地元自治体と話して、BRT(バス高速輸送システム)導入を説得したのが藏内氏だった。“知事よりも力を持っている”と言われるゆえんである。
福岡県の「治らない病」
藏内氏の影響力はマスコミにも及んでいる。県がどのような政策を進めるのか、彼の腹ひとつという面がある。記者は藏内氏に話を聞かない限り、県政に関してまともな記事を書くことができない。つまり、彼から拒まれると仕事にならないため、在福のマスコミは「藏内詣で」を続け、嫌われるようなことを避けてきた。
元県政担当記者が自戒を込めてこう解説する。
「そういった中でマスコミの中にも藏内氏へ忖度が働き、県議会の不正の噂があっても深く追及してこなかったのは否定できません。そこは我々も反省すべきでしょう」
ただ、県政のカネの問題は過去もあったという。それは福岡県の「治らない病」のようでさえあると話す。
「今回、海外視察のことが問題になっていますが、福岡県は昔から不正出張問題や虚偽旅費請求事件などがたびたびありました。奥田八二知事(1983~95年まで在任)が4期目に挑戦しなかったのもカネの問題と言われています。
実際、その後、県職員によるカラ出張やカラ懇談会など61億円以上の不正支出が発覚しています。そういう風土だからこそ、藏内さんをドンとしていただく体制下が続き、不正が今日まで温存されしまったといってよいでしょう」
強い組織だからこそ、生まれた不正。正副議長ポストを餌にした金銭要求と金銭提供が、そうした中で生まれとしても不思議ではない。
行革の窓口で育んだ人脈と交渉力が県議会支配を生み、忖度の連鎖が不正を温存した――。藏内氏の権力の軌跡は、そのまま福岡県政の病理の軌跡でもある。
県議会のドン、藏内勇夫はこの局面を打開する妙手をさぐっているのだろうか。すでに今回の騒動は、福岡県だけでなく、全国レベルの関心を集めている。知事をもしのぐ権力をと言われている以上、藏内氏が何らかの説明をしなければ、国民が納得しないだろう。追い詰められたドンの今後に注目が集まる。


