糖尿病に苦しむ人々の希望の光

インスリンの発見と糖尿病治療の夜明け:すい臓の役割解明

糖尿病のメカニズム解明において、さらに大きな進展をもたらしたのは、すい臓がこの病気に関わっているという発見です。1889年、ドイツの研究者オスカー・ミンコフスキーとジョゼフ・フォン・メーリングは、すい臓を摘出したイヌが糖を含む多量の尿を出すという糖尿病の症状を示すことを確認しました。

これにより、すい臓が血糖値を調整する重要な役割を果たしていることが証明されました。

そして、1921年、カナダの若き外科医フレデリック・バンティングは、糖尿病の原因がα、β、δという細胞が集まる、すい臓の「ランゲルハンス島」にあると推測し、この部分の抽出に挑みました。

しかし、ランゲルハンス島から物質を取り出すのは至難の業でした。バンティングと助手の医学生チャールズ・ベストは、すい臓の消化酵素を避けながら慎重に解剖し、冷却しつつ抽出物を集めるという独自の方法を考案しました。

その努力が実り、抽出物を糖尿病のイヌに注射すると、血糖値が劇的に下がる効果が現れました。この抽出部は「インスリン」と名付けられ、糖尿病治療の切り札となり、糖尿病に苦しむ人々に希望の光をもたらしました。

バンティングとベストは糖尿病治療の新時代を切り開いたのです。

インスリンを発見した外科医の一人「フレデリック・バンティング」
インスリンを発見した外科医の一人「フレデリック・バンティング」(写真=https://wellcomeimages.org/indexplus/image/V0025994ER.html/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

インスリン分泌不全とインスリン抵抗性の発見

インスリンが1921年に発見されたことで、糖尿病は「治療可能な病気」へと変わり、さらにその病態の解明が急速に進みました。インスリンが血糖値を下げる役割を果たしていることがわかると、「なぜインスリンが不足したり効かなくなったりするのか?」という疑問が研究者の関心を引きました。

これを解明するために、糖尿病のある人の体内で起きているメカニズムの違いに注目が集まり、二つの異なるメカニズムが見えてきました。

一つは「インスリン分泌不全」です。これは、すい臓からインスリンがうまく分泌されない場合であり、血液中にインスリンが不足するために、血糖値が高くなる現象です。こうした分泌不全は、すい臓の特定の細胞が破壊されることで起き、現代では主に免疫系の異常が関与していると考えられています。

インスリンが分泌されないことで、体内の細胞に糖が届かず、エネルギー不足や急激な体重減少といった症状が出ることがわかりました。

もう一つのメカニズムが「インスリン抵抗性」です。これは、体内でインスリンが作られているにもかかわらず、細胞がインスリンに反応しにくくなる状態を指します。

20世紀後半に入ると、肥満や運動不足がインスリン抵抗性を引き起こす要因として注目されました。特に、生活習慣が糖尿病の発症や進行に大きく影響することが分かり、糖尿病が「生活習慣病」としても認識されるようになりました。

こうした病態の解明は、糖尿病の治療に革命をもたらし、インスリン注射だけでなく、生活習慣改善や薬物療法など、患者さんの症状や体質に応じたさまざまな治療法が開発されるきっかけとなりました。