「みんなが憧れる旅」なのに売れない

2024年冬の制度変更により、大幅な販売数の減少を招いている青春18きっぷであるが、興味深いのは青春18きっぷそのものへの関心が薄れたわけではないということだ。

YouTube上では制度変更後でも、鉄道系や旅系YouTuberによる青春18きっぷの関連動画は人気を集めている。いずれも3日間用を活用して54時間列車に乗り続けるチャレンジをする動画や、年末に夜行バスの価格が高騰していることへの対策として東京から普通列車で実家への帰省にチャレンジする動画などは、数十万回再生されている。

つまり、人々が憧れる旅のスタイルそのものは今も変わってはいないのである。それにもかかわらず、青春18きっぷが売れなくなっていることは、JRグループがニーズだと認識しているものと、実際の利用者のニーズとの間に大きな乖離があったことに他ならない。制度変更は、青春18きっぷが持っていたブランド価値そのものを弱めてしまった可能性がある。

「数十年後の鉄道利用者」への先行投資

青春18きっぷは40年以上にわたり、日本の鉄道旅行文化を支えてきた。学生時代に青春18きっぷで全国を旅した経験は、多くの人にとって忘れられない思い出となっている。

ローカル線に揺られ、途中下車を繰り返し、駅前商店街を歩き、駅弁を食べ、地方の風景に触れる。そうした体験を通じて、「鉄道で旅をする楽しさ」を知った人は少なくないだろう。そして社会人になると、新幹線を利用し、家族旅行でも鉄道を選ぶ。

電車の窓から見える花
写真=iStock.com/mutarusan
※写真はイメージです

青春18きっぷは、将来の鉄道利用者を育てる「入り口商品」としての役割も果たしてきたのである。企業経営の言葉でいえば、長期的な顧客育成への投資だったと言える。

短期的な収益だけを見れば採算性に課題があったとしても、その先に生まれる顧客生涯価値(LTV)は決して小さくなかったはずだ。