ツアータイトルに込めた思い
2024年12月21日のこと。東京・渋谷「Yamaha Sound Crossing Shibuya」で開かれたイベント『Future Tech Week』のステージに、山口智史さんの姿はあった。無期限活動休止から約10年を経て、再びドラマーとして人前で演奏を披露することとなったのだ。
会場には家族や友人のほか、旧知の音楽関係者も招待されていた。山口さんはVXDを組み込んだドラムセットの前に座り、マイクへ向け「ドン、ドン」と声を発してバスドラムを打ち、RADWIMPSの曲《25コ目の染色体》を演奏した。技術デモンストレーションではない、まぎれもない純粋な音楽表現が繰り広げられていた。客席から万雷の拍手が沸き起こった。
山口さんはその後、VXDシステムを用いてのライブハウスツアーを敢行する。大阪、名古屋、横浜などを巡ったツアーのタイトルは『The Past Can Be Changed』。
直訳すれば「過去は変えられる」だが、山口さんはこの言葉を「未来が過去を意味づける」と捉えている。
ミュージシャンズ・ジストニアを発症して心身に不調をきたし、30歳で無職になり、大好きな音楽からも離れなければならなかったときは絶望した。しかし、挫折が大きかったからこそ、棚田やアイスクリーム事業、研究への強烈なモチベーションが生まれ、VXDという新しいテクノロジーも生み出すに至った。
これまでのすべての経験がなければ、いま思い描いている未来は存在しなかった。そう考えれば、どん底で暗闇だったはずの過去の意味も、現在の自分によって鮮やかに書き換えられていくと思えるのだった。
3748日ぶりにRADWIMPSに”復帰”
山口さんの多方面での挑戦は、どれも継続中のものばかりだ。2026年には、スタンフォード大学やハーバード大学をはじめ北米の6つの大学を巡る海外ツアーが組まれた。
自身のライフストーリーを語り、論文と研究の成果を発表し、さらにはVXDでドラムを演奏するというもので、公演時間のなかに「人生、音楽、学問、テクノロジー」を詰め込んだ類例のないステージだった。研究内容も演奏もオーディエンスに大いに響いて、新しいコラボレーションの申し出をいくつも受けるなど成果は大きかったという。
また、ひとりのミュージシャンとしても、2025年の年末には画期的な出来事があった。RADWIMPSの20周年記念全国ツアーの最終公演(有明アリーナ)に、ドラマー・山口智史としてサプライズ出演したのだ。

