「利用されたのか」瀬戸山を襲った疑念

オリックス・近鉄の合併交渉が報じられた直後、瀬戸山はロッテ本社に呼び出された。待ち受けていたのは、重光昭夫オーナー代行と濱本だ。昭夫は父・武雄オーナーと同様、球団経営に積極的には関与していなかった。ほとんど口を開かない昭夫を横目に、濱本がその場の会話を主導した。

「合併の話がもう一つある。ダイエーを何とかしないといけない。ロッテのためではなく、野球界のために我々が白馬の騎士となる」

白馬に乗った騎士
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王貞治監督のもと強豪チームとなったダイエーは、地元福岡で絶大な人気を誇っていた。単体では赤字経営だったものの、高い集客力やチーム力を考えれば、他球団より遥かに優良な資産だった。

問題は親会社だった。ダイエー本体は巨額の有利子負債にあえぎ、産業再生機構の支援を仰がねばならないほどの経営危機に陥っていた。

「合併に備えて両球団選手の“要・不要リスト”を作成せよ」

濱本からそんな命を受けた瀬戸山は、怒りをあらわにした。ダイエー退団後、オーナー直々に熱心な誘いを受けた。だからこそ別の進路を断ってまで千葉にやってきたのだ。あの熱は、結局のところ、ダイエーとの合併交渉をスムーズに進めるためのパイプ役として自分を見込んでのことだったのか――。そんな不信感が頭をよぎった。

「選手を選べ」と言われ返した覚悟の言葉

「ロッテを立て直すために来たんです。そんな選手のリストを作るなんてことは、今、私がすることではない。どうしてもやれと言うなら辞めます」

憤る瀬戸山を、濱本は「球界のためだから」と同じ言葉を繰り返して押しとどめた。

会議を終え、改めて両球団の合併を思い浮かべた。千葉と福岡という本拠地の距離。ボビー・バレンタインと王という二人の名将。そして、両チームの選手たち。それらを一体どうやって1つにまとめるというのか。どれだけ考えても、現実味は1ミリも湧いてこなかった。

やがて、球界再編のより深部へと引き込む第二の波が瀬戸山を襲う。

ある日、プロ野球選手会事務局長の松原徹から電話が入った。「一体どうなっているのか全く分からない。誰も会ってくれない。瀬戸山さん、とにかく一度会ってください」。

選手会が瀬戸山を頼ったのは、彼がNPBの「選手関係委員長」を務めていたからにほかならない。選手関係委員長とは、最低年俸の引き上げなど労組(選手会)側からの要求を受け止め、オーナー会議に諮るための、経営側の労使交渉窓口だ。

12球団の代表者には親会社からの出向者など「お飾り」の人物も少なくない中、瀬戸山は契約更改などの厳しい現場を潜り抜けてきた、きっての実務家だった。適任者としてダイエー在籍時から長くこの委員長を務め、一度は退任したものの、ロッテ入団後に再び同職に就いていた。