「技術は手を動かせばうまくなる。商売はその先にある」
「普通は、まずいいものをつくって、職人を増やして、最後に事務の方を雇う。僕は逆です。先に外堀を全部固めてから、最後に職人を増やします」
社則は最新の労働基準に切り替え、福利厚生完備、出退勤は1分単位、残業なし、週休2日、有給は全消化。持続できる形に整えたうえで、最後のピースとして職人を迎え入れる。それが村上さんの考える生き残りの勝率を高める施策だ。
現在は店のそばにある一軒家を改装し、新たな工房の整備と後進育成の準備を進めている。他業種との連携も動きはじめた。山形県で約100年続く「山形よしだ桐箱店」と組み、靴用の桐箱を共同開発。原宿の老舗古着店とはYouTubeコラボレーションもはじまった。
「今まで店を潰さないことに必死でした。やっと、その先に手が届くようになってきました」
取材の最後に、村上さんはこう語った。
「技術は、手を動かせばある程度うまくなります。でもそれだけじゃ商売にならない。商売は、技術の先にあるんです」
だから「選ばれる店」になれた
ハドソン靴店が選ばれ続ける理由は、ひとつではない。他店が避ける高難易度の修理を引き受けることで独自の領域を築いたこと。一足に2〜3時間を費やす打ち合わせで客の想いをくみ取り、信頼を積み上げたこと。複数のプラットフォームを活用して店の存在を伝えていること。そして個の技術に頼る職人の世界から「チーム経営」へと舵を切り、持続可能な形を整えたこと。
師匠たちの姿から学んだ、時代に合わせて変えるべきものは変え、変えてはならないものは守るということ。その判断を重ねてきた15年間が、この店を「選ばれ続ける店」にした。
インタビュー中、村上さんは何度も「周りで支えてくれている方たち」と口にした。
ふたりの師匠からは技術だけでなく、職人として生き残るための哲学を学んだ。先代のおかみさんには、靴の仕事を続けるか迷っていたときに思いとどまるひと言をかけられた。現在のチームメンバーのなかには、一度は店を離れながらも再び村上さんのもとに戻ってきた人たちがいる。振り返ると、ハドソン靴店の転換点にはいつも、誰かの存在があったように思う。
淡々と穏やかに語る村上さんだが、その言葉の端々に、周囲への深い感謝がにじんでいた。靴に向き合うのと同じ視線で、人にも向き合っている。その姿勢こそが、「大切な一足をこの人に任せたい」と思わせる、いちばんの理由なのかもしれない。



