「合意は近い」を40回も発信
2025年6月15日(日本時間)、トランプ米大統領とイラン政府は、同19日に和平覚書へ調印することで合意したと相次いで発表した。
これはたしかに朗報だが、周知のとおり、ここに至るにはかなり難航した。
トランプはこれまで約40回にわたり、「合意は近い」「イランは署名に近づいている」「まもなく歴史的な合意が成立する」と発信してきた。しかし、そのたびに交渉は先送りされ、現実には軍事衝突が繰り返されてきた。
振り返ると4月7日の暫定的な停戦以降、双方の要求は乖離しており、交渉は難航が続いていた。5月28日には、停戦の60日延長の覚書の草案で暫定的に合意したと報じられたが、翌29日、米側は「核開発とホルムズ海峡再開の問題で、イラン側に修正を求める」として正式に拒否。交渉は再び暗礁に乗り上げた。
つまり、トランプ側はずっと、「イランが核開発の放棄やホルムズ海峡の再開を受諾する方向で交渉は合意寸前」と言い続けてきたが、イラン側の条件はそうではなかったということである。イラン側の主張はむしろ一貫しており、トランプ側の発信情報と大きく食い違っていた。
トランプの「イラン側が妥協」はウソ
少なくともこれまでの交渉過程では、トランプが語っていた内容の多くは事実ではなかった。実際には、イラン側の発言を丹念に追う限り、そのような兆候はほとんど確認できなかった。むしろイラン側は最後まで、「ウラン濃縮停止はあり得ない」「米国の要求は受け入れられない」「ホルムズ海峡の権利は譲らない」と主張し続けていた。
では、なぜこれほどまでに認識のズレが生じたのか。その理由は、トランプの発言そのものにあるのではない。トランプが誇張や虚勢を交渉手段として用いることは今に始まった話ではないからだ。
今回の交渉を理解するうえで本当に重要なのは、むしろイラン側の交渉手法である。
その交渉手法を理解するためには、イラン外務省の公式声明などだけでなく、革命防衛隊(IRGC)系メディアや保守強硬派の発言を追う必要がある。イラン政権内で実権があるのは彼らであり、最高指導者周辺、革命防衛隊、保守派議員、そしてファルス通信やタスニム通信といった体制系メディアの論調が、政権の本音を映し出すことが少なくないのだ。そして、そうした情報をフォローすると、彼らの主張は驚くほど一貫していたことが分かる。

