強硬派が主導権を失った可能性

イラン国内では、交渉継続と強硬姿勢は矛盾していなかった。イランでは「交渉=国益を守るための戦場」であり、必ずしも譲歩を意味しない。

この認識の違いが、米国側の期待とイラン側の現実の間に大きな隔たりを生んだのであろう。

ただし、ここ数日の動きを見ると、イラン政権内部では変化も起きていた可能性が高い。

合意直前まで保守強硬派や革命防衛隊に近い論者からは、「米国に譲歩すべきではない」「制裁解除が保証されない限り合意は無意味だ」といった反対論が相次いでいた。

一方で、交渉を担当するアラグチ外相は「われわれは国益を守りながら外交的解決を追求する」と繰り返し述べ、政府内では交渉継続の必要性を強調していた。

また大統領府周辺からも、「戦争回避と経済安定は国家の優先課題だ」とする趣旨の発言が相次いだ。

ただ、徐々に対外強硬派の議員や保守派系メディアからも「政府の交渉に勝手に異論を公表すべきでない」「意見の分裂は慎むべき」といったように、同国内の強硬論を批判する論調が増えた。つまり、最終局面では強硬派よりも交渉派が政権中枢で主導権を握ったとみられる。

もっとも、これはイランが完全に米国に妥協したことを意味しない。

「ホルムズ海峡は通航料なしで開放」の微妙な意味

イラン政権は建国以来、一貫して体制維持と政権サバイバルを最優先してきた。イスラム革命の“大義”を重視する一方で、体制存続が危うくなる局面では現実的な妥協や戦術的柔軟性を選択してきた歴史がある。

今回も、軍事衝突の拡大や経済的負担を回避し、制裁緩和の可能性を残すことが体制利益にかなうと判断された結果、強硬論より実利を重視する路線が優先された可能性が高い。

もちろん「本格的戦闘の再開を回避したい」との動機が第一にあったはずだ。

ただ、今回の合意では、核心である核問題は、実は実質的な取り決めについては今後の協議に先延ばしされた面が大きい。その意味では、米側も妥協している。

だが、見落としてはならない変化がある。ホルムズ海峡問題だ。

ホルムズ海峡
写真=iStock.com/Alones Creative
ホルムズ海峡の「通航料なしでの開放」を公表(※写真はイメージです)

これまでイランは、「ホルムズ海峡はイランとオマーンの管理下にある」「米国に海峡の運命を決める権利はない」と主張してきた。もともと通航料を徴収することも主張していたが、最近は通航料でなく、安全管理の手数料を徴収するとしている。

ところが今回、トランプは「通航料なしでの開放」を公表した。そして興味深いことに、イラン側はそれを正面から否定していない。