「米側の要求はばかげた戯言」

たとえば2026年5月6日、最高指導者軍事顧問で元革命防衛隊総司令官のモフセン・レザイは国営メディアの取材に対し、米国の要求を「妄想に基づく要求だ」と批判。

モフセン・レザイ軍事顧問
モフセン・レザイ軍事顧問(写真=Photos from Khamenei.ir/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

「米国はイランに濃縮停止を要求しているが、それは科学技術の発展を放棄せよと言っているのと同じだ」「我々は交渉するが、国家の権利を売り渡すために交渉するのではない」と主張した。

レザイは革命防衛隊の発足前からの古参の最実力者で、革命防衛隊出身人脈のトップの黒幕的人物である。

また、5月11日にはオモテの交渉担当であるアッバス・アラグチ外相がテヘランで記者団に対し、「濃縮活動はイラン国民の権利であり停止しない」と明言。さらに5月16日には、「核施設の維持と平和利用は交渉対象ではない」とまで断言した。

アラグチ外相(2024年)
アラグチ外相(2024年)(写真=Khamenei.ir/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

翌17日にはモジタバ・ハメネイ最高指導者の名義で、「トランプは平和を望むと言うが、嘘だ」「米側の要求はばかげた戯言であり、相手にしない」との声明が発表されている。

モジタバ名の声明は同20日にも出されているが、いずれも「濃縮停止はあり得ない」「米国の要求は過剰で検討外」という内容だった。イランではモジタバの名前で公式発表される内容は絶対であり、イラン政府の確実な対外方針と断定できる。

「衝突は避けられない」と発言

6月に入ってからも状況は変わらなかった。

6月1日には前出のレザイ軍事顧問が「ホルムズ海峡はイランの管理下で不変。米側の封鎖は許さない」とSNSに投稿。翌2日にはイランの革命防衛隊と国軍を統合指揮する大本営である「ハタム・アルアンビヤ中央本部」のモハンマド・ジャファル・アサディ副司令官が「米国は我々に完全降伏を要求しているが、絶対にしない」「降伏しないかぎり、衝突は避けられない」と発言した。

6月3日にはレザイ軍事顧問が再び「米国の過剰要求は許さない」「米側の攻撃あれば集中攻撃で応じる」と投稿。

その上、5日には米CNNの取材に応じて「合意のカギは凍結されているイラン資産240億ドルの解放にある」「米国が封鎖を解除せずに敵対行為を継続するなら戦線をインド洋、紅海、地中海へ拡大し、米軍基地にも甚大な被害を与える」と主張した。

他にも革命防衛隊系メディアや、イスラム聖職者幹部などが繰り返し、核開発やホルムズ海峡の問題で米側の要求を完全否定する声明を繰り返し、発信してきた。

おそらくトランプ側が一貫してイラン側の妥協を前提とする「合意は近い」発言を繰り返し、パキスタンなどの交渉仲介国関係者からも米メディア各社に「合意は近いようだ」といった憶測コメントが伝えられることで、それがまるで既定路線かのように一部報道されていることに対し、強く否定する意味があったのだろう。