ただただ知的好奇心のみで生きる男
実際、刑事ドラマにおいて、事件絡みでこれほど絵画や画家の話が頻繁に登場する作品も珍しいだろう。読書に関しては、小説家などが事件関係者だったりすると、たいていその作品も読破済みで滔々と魅力を語ったりする。
またシェイクスピアのセリフを即興で諳んじる場面も(シーズン19第6話)。さらに科学者が書いた専門的な論文までも読んでいる。さすがに論文については捜査関連の場合が多いが、そういうことはその筋の専門家に聞くのが普通だろう。
それを自分で調べ、なおかつ読んでしまうところが変わっている。さらには辞書を愛読書にしているらしい(シーズン17第3話)。博覧強記なのもさもありなんといったところである。
隣の部屋の薬物銃器対策課課長・角田六郎(山西惇)が「暇か?」と言いながらコーヒーを貰いに特命係の部屋に入ってくるのが「相棒」の名物だが、その言葉を借りれば、捜査しているとき以外は右京にとってすべての時間が“余暇”なのかもしれない。
朝食はご飯派かパン派か? どんな間取りの家に住んでいるのか? ごく私的な友人関係などはどうなっているのか? といった普通の生活部分についてはまったく見えない。
ただただ森羅万象への知的好奇心のみで生きている。それが私たちの目に映る杉下右京だ。
なぜ右京は幽霊を信じるのか
興味深いのは、そんな右京が幽霊の存在を固く信じていることだ。一般的な趣味とは同列に並べられないかもしれないが、なにかのきっかけで幽霊の話になると突然テンションが上がり、饒舌になる。
ただほかの趣味と違うのは、好きなときに見たり聞いたり味わったりできないことだ。幽霊の存在を信じていながら、実は自分では一度も幽霊を見たことがない。
見たというひとがいると、身を乗り出して興味津々で質問攻めにする。こと幽霊に関しては、ワクワクを隠せないようだ。
シーズン11第10話「猛き祈り」。休日にキノコ狩りに出かけた甲斐享が何者かに暴行され、瀕死の重傷を負う。そして事件解決後、まだ入院している享のもとにひとりの老人(前田昌明)が訪ねてきて笑顔で話しかける。
実は彼は事件の関係者なのだが、すでに亡くなっている。つまり、幽霊だったのだ。その話を聞くと右京はいきなり周囲の人間に「あなた、(幽霊を)ご覧になったことは?」と興奮気味に尋ね、「実は僕もいまだかつて見たことがないんですよー」と大げさに残念がる。

