毎日へとへとになるまで働いているのに、幸せを感じられないのはなぜか。芥川賞作家の田中慎弥さんは「税金や外国人、デジタル化や政権が攻撃対象になるが、そんな単純な話ではないだろう」という。筑波大学教授でメディアアーティストの落合陽一さんとの対談をお届けする――。
※本稿は、田中慎弥・落合陽一『堕落論 住めば都のディストピア』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
がんばっても報われない時代をどう生きるか
【落合】田中さんは著書『孤独に生きよ』に、「現代人は正体のない者の奴隷になっている」と書かれています。正体のない者というのはどんなものなのですか。
【田中】敵を見定めて戦っていけるのであれば、良し悪しはともかくやることははっきりするのですが、現代人はそういうわかりやすい世界には生きていません。自分が生きていくための仕事でヘトヘトになって、場合によっては精神的なバランスを崩し、ときにはみずから命を絶ってしまうことまであります。
生きるための仕事で、逆に自分が蝕まれていくというのは、どういうことなのか。昔なら「殿様が悪い」と言えたかもしれませんが、いまは上司が悪いと言いたくても、その上司もだれかの部下です。システムの歯車にすぎません。「資本家が搾取している」とは言えるかもしれませんが、いったいみんな何に支配されているのか。正体が見えない相手に動かされているとしか思えないのです。
それに世の中は、「がんばったぶんだけ、ちゃんとうまくいく」ようにはできていないみたいです。特にここ二、三十年は、かつての高度経済成長とされた時代とは異なり、「がんばったら幸せになれる」わけではない。そのことにだれもが気づいている。そんな時代をどう生きていくか。自分がうまくいかないのは、自分ひとりの責任ではない気がするが、じゃあだれに不満をぶつければいいのか。それもわからない。

