「古本のネット販売事業のときも、都市鉱山事業のときも、オリンピック・メダルプロジェクトのときも、誰もがみんな無理だと言いましたし、当然赤字からのスタートでした。でも、諦めずに挑戦を続ければ、誰かがどこかで見ていてくれる。情熱は、波及するんですよ。そして不可能の壁を乗り越えた後ろには、他社の追随を阻む障壁ができるんです」
2016年12月20日、リネットジャパンは東京証券取引所マザーズ市場(現・グロース市場)に上場を果たす。2000年のITバブル崩壊から16年、2回の上場断念を経て、黒田さんはついに上場の鐘を鳴らした。
「あの時、起業していれば」と後悔したくなかった
リネットジャパンの社内に掲示された、スペインの建築家、アントニ・ガウディの未完の傑作「サグラダファミリア」の写真。そこには「ビジネスを通じて『偉大な作品』を創る」という言葉が添えられている。
行き過ぎた資本主義のなかで見失っていた自分を取り戻し、会社売却騒動で離れた社員の心をひとつにまとめるために打ち出した、壮大な目標だった。
ガウディのサグラダファミリアのように、自分がいなくなった後も残り続ける事業の図面を描きたい――。
黒田さんは2025年、60歳を迎えた。
「トヨタを辞めると伝えたとき、父には泣いて止められました。『辞めなくても、自分のやりたいことはできる』と」
黒田さんの父は、高校を卒業後すぐに就職し、定年までひとつの会社に勤めた。裕福ではない暮らしの中で必死に家族を養ってきた父親にとって、息子がトヨタに入社したことは、ささやかな自慢の種だったのかもしれない。
「もちろんトヨタでもやりたいことはできたかもしれません。しかし、仮に取締役になっていたとしても、『あのとき自分が起業していたらどうだったんだろう』と振り返ること自体が、私にとっては人生における『失敗』だと思うんです」
挫折があったから、今がある
2000年、あの煌びやかな時代に目がくらんだ。中小企業のオヤジじゃ終われない。その思いが、上場へのこだわりにつながった。しかし、時代の主役を照らすスポットライトは、黒田さんの足元をすり抜けていった。
動き出すのがあと数カ月早かったら、時代の寵児になっていたかもしれない。
「もしあのときに上場していたら、60歳になった今も、こんなに燃えてはいないでしょうね」
黒田さんは現在、家電リサイクル事業による障がい者雇用の拡大を目指している。大量消費型から循環型のビジネスモデルへ。ガウディのように、よりよい未来への図面を描いている。


