トヨタ流「カイゼン」で再起を図る

2003年、東京では六本木ヒルズが完成し、勝ち組の象徴として「ヒルズ族」という言葉が生まれていた。

しかし黒田さんはもう、彼らの影を追うことはなかった。華やかな東京から遠く離れ、会社の赤字解消のために修行僧のように向き合った。距離を置くことで、ようやく自分の立場に気づいたのだという。

黒田さんが選んだ手段は、古巣で学んだ「トヨタ生産方式」による経営の見直しだった。

古本販売は、粗利率は高いが単価が安い、薄利多売のビジネスだ。利益100円、200円をフル回転で回すために最も大切なのは、余剰在庫を抱えないこと。そのためにはローコストオペレーションを実現しなければならない。

まずは無駄な在庫や工程を徹底的に見直した。必要なものを、必要なときに、必要なだけ作る「ジャスト・イン・タイム」と、異常発生時にラインを自動的に停止して不良品を未然に防ぐ「自働化」を柱とするトヨタ生産方式を導入。商品のピッキング、検品、出荷のオペレーションを見直しては、トライ&エラーを繰り返していった。

その結果、小売業の営業利益率は2~5%程度が目安とされているところ、15%を達成するまでに至った。

煌びやかなIT起業を目指していた黒田さんを救ったのは、トヨタ時代に培った、泥臭いほどの「カイゼン」だったのだ。そして2007年、会社設立7年目にしてようやく黒字転換に成功、黒田さんは再び上場を目指す――。

しかし、またしても目前でハシゴを外された。

2008年9月15日、アメリカの証券会社「リーマン・ブラザーズ」の破綻により、世界的な株価大暴落が始まったのだ。

撮影=プレジデントオンライン編集部
「起業から10年はうまくいかず、苦しかった」という黒田さん。しかし、その間に経営者としての価値観や理念が固まっていったと振り返る

二度目の挫折と「上場」という呪縛

しぶとい男も、二度目の挫折でさすがに心が折れた。

「会社を設立して以来、インターネットベンチャーとして上場を目指してきたのですが、2回目の上場失敗によって少し立ち止まって考えたんです。『ヒルズ族』や『IT長者』といった行き過ぎた資本主義の中で、違和感を覚え始めた時期でもありました」

迷いと落胆のなか、黒田さんの耳に甘いささやき声が届いたのもその頃だった。あるネット系企業から、会社の売却を持ちかけられたのだ。正直、心が動いた。相次ぐ上場計画の失敗から、事業へのモチベーションが切れかけていたころだった。

会社を売却すれば、莫大な資金と安定した地位が手に入る。しかし、本当にここまででいいのか……。自問自答は、売却期限直前まで続いた。

「これまで、上場を目指して頑張ってきました。しかし走り続けるうちに、だんだん上場が『目的』や『ゴール』となっていき、事業の中身や生み出す価値に目が向かなくなっていたことに気がついたんです」

だったらまだ、やり残したことがあるはず――。売却期限直前で、黒田さんはなんとか踏みとどまった。

しかし、社長の迷いは確実に社員の士気を下げる。気がつけば一連の売却話で、社員のモチベーションは一気に下がっていた。

再び団結するためには、何か新たな目標が必要だった。大きくて困難で、誰もが「無理だ」というような、新規事業が。