「待っているだけではだめだ」

誰も信じなかった事業が、実現に向けて動き始めた。黒田さんは本やCDを買い取る宅配の物流を応用し、小型家電の回収を開始。どう転ぶかわからないため、既存の古本事業は残したまま、古参の社員数名で、ネットオフの子会社として「リネットジャパン」を立ち上げた。

そして、ここでようやく風向きが変わり始める。2013年4月、使用済み小型家電に含まれる資源をリサイクルし、廃棄物の適正処理と資源の有効利用を図ることを目的とする、「小型家電リサイクル法」が施行されたのだ。

「そのころは、私たちのように家電を宅配回収する業態は想定されていませんでした。ほとんどの業者が、リサイクルボックスを設置して、顧客が自ら製品を持参する方法をとっていたんです」

しかし、回収ボックスに頼っていては、リサイクルは進まない。客が自ら持ってくるのを待っているだけではだめだ。黒田さんは自宅からインターネットと宅配で家電を回収するリネットジャパンの事業を提案、1年かけてようやくリサイクル業者として認可を受けた。これまで黒田さんの事業に吹き荒れていた逆風が、初めて静まった瞬間だった。

1年続いた無風状態

しかし、許認可を受けリサイクル業の看板を掲げても、すぐに追い風は吹かなかった。ピタリと止まったまま、無風状態が約1年続く。

「送料980円での宅配回収をスタートしたものの、1日の申込数は10件程度の日が続きました。自治体の回収ボックスに自分で持参すれば無料ですからね」

各家庭内に散らばる小型家電を回収する事業は、ただでさえコストがかかる。しかし顧客は不要な物にお金を払いたくはない。CMを打って認知を拡大しようと試みたものの、大きな変化はなかった。

「やはり回収費を無料にしなければダメだと、1年かかって決断しました。しかし、回収費を無料にするなら、キャッシュポイントを別に設けなければなりません。そこで考えたのが、有料オプションサービスの導入でした」

黒田さんは、ここで大きくビジネスモデルを転換。回収費を無料にする一方、パソコンやスマートフォンのデータ消去や新しいハードディスクへの移行など、いくつかの有料オプションを用意し、キャッシュポイントとした。

このプランが顧客に刺さり、申し込みはこれまでの20倍に跳ね上がった。

「1日100件を超えたときには、みんなで拍手喝采しましたね」

黒田さんの乗った重い船は、ゆるく吹き始めた追い風によって、ようやくゆっくりと動き始めたのだ。

黒田さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
無料回収とデータ消去などのオプションサービスを導入し、回収件数は大幅に増えたという

小型家電から作った東京五輪のメダル

ブレイク・スルーとなったのは、自治体と連携できたことだった。黒田さんは、回収事業に興味を持ってくれる自治体に出向いては説明し、1箇所ずつ協定を結んでいった。そしてその輪が爆発的に広がったのが、『東京オリンピック・メダルプロジェクト』だった。

東京2020オリンピック・パラリンピックの金・銀・銅メダルを、全国から集めた使用済み小型家電からリサイクルされた金属で作成するという壮大なプロジェクト。この前例のない取り組みは200以上の自治体を巻き込む巨大なムーブメントとなり、都市鉱山や小型家電リサイクルの認知度拡大に貢献した。