経済制裁下の北朝鮮が、今も外貨を稼ぎ続けている。防衛大学校共同研究員の伊藤隆太さんは「海外で身元を偽って働く若いIT労働者が、その主要ルートだ。北朝鮮は理系のエリート学生を育て、外貨獲得のための労働力に仕立て上げている。IT労働者たちは家族を人質に取られながら月160万円を稼ぎ、その9割超が国家に搾取されている」という――。
北朝鮮国旗とハッカー
写真=iStock.com/BeeBright
※写真はイメージです

制裁下でも外貨を稼ぐ手口

北朝鮮の脅威というと、多くの人はミサイル発射や軍事演習を思い浮かべる。だが、いま本当に見えにくく、そして見落としてはならない脅威は、画面の向こう側にある。北朝鮮は数学やプログラミングに優れた若者を選抜し、二つのルートで外貨獲得に動員している。

一つは、暗号資産の窃取などを担う「サイバー攻撃工作員」。もう一つは、身元を偽って海外の受託開発やフリーランス業務をこなす「海外IT労働者」である。

その実態を端的に示すのが、「月160万円」という数字だ。2025年10月22日に外務省が公表した多国間制裁監視チーム(MSMT)の第2回報告書によれば、北朝鮮の情報技術(IT)労働者チームでは、管理者が各人に少なくとも月1万ドルのノルマを課している。1ドル160円で機械的に換算すれば、約160万円になる。

しかも同報告書は、本人が手元に残せるのは総収入の5〜10%にすぎない場合があるとも記している。月160万円を稼ぐ若者から、その9割超を国家が吸い上げている計算になる。

なぜ北朝鮮は、若者にここまで稼がせておきながら、本人にはたった1割しか残させない上納構造を維持できているのか。そして、月160万円を稼ぐエリートでありながら、若者たちはなぜそこから逃げ出さないのか。