神奈川県横須賀市に創業88年の町のパン店がある。店主の北原俊勝さんは82歳の現役パン職人で、毎日深夜3時から仕込みを始める。名物は、コッペパンにポテトチップスを挟んだ「ポテチパン」。1975年から作り続け、今では毎日120個が完売する人気商品となり、秋篠宮さまも買い求めるまでになったという。ポテチパンが愛される理由を、フリーライターの弓橋紗耶さんが取材した――。(前編)
北原製パン所
筆者撮影
「ポテチパン」を作り続ける店主の北原俊勝さん(左)と妻の潤子さん

店先に現れ“殿下の旧友”

「このパンを、宮内庁へ届けるんだ」

男性客の一言で、時が止まった。「え? どこへ持って行くって?」と聞き返しながら、店主の北原俊勝さんは耳を疑った。

「秋篠宮殿下から頼まれてね」

そう笑顔で話す男性は、殿下の旧友だと名乗った。半信半疑で会話を交わした数日後、店には宮内庁からお礼の品が届いた――。

宮内庁から贈られた、輪島塗のアドレス帳
筆者撮影
宮内庁から贈られた、輪島塗のアドレス帳

北原さんが経営する北原製パン所は、地元・横須賀市追浜で長年愛されているお店だ。創業は第二次世界大戦開戦前の1938年(昭和13年)。今年で88年を迎える老舗で、1日に約300人が訪れる人気店である。

ショーケースに並んでいるのは、食パン・アンパン・クリームパン、焼きそばやコロッケを挟んだ惣菜パンなど、昔ながらのラインアップがずらり。値段も一つ100円台からと、物価高のご時世にはうれしい、昔ながらの“町のパン屋”であることがわかる。

それが、一体全体なぜ、宮内庁からご用命いただけるようになったのだろうか。

きっかけはテレビ朝日「朝メシまで。」

きっかけは、2025年秋にテレビ朝日で放送された、「朝メシまで。」という番組だ。同番組は深夜に働く人々を取り上げるもので、国道16号線を自転車で走っていたテレビクルーが見つけたのが、「北原製パン所」の作業場からこぼれる光だった。時刻は深夜3時。調査のためにカメラが店に入ると、そこには黙々と仕込み作業を行う、御年82歳の現役パン職人・北原さんが立っていた、というわけだ。

番組内では一風変わった名物、「ポテトチップサンド(通称:ポテチパン)」(税込み230円)が紹介された。名前の通り、コッペパンにポテトチップスを挟んだもので、見た目は非常にシンプルである。VTRで作り方が紹介されると、「うまそう」「どんな味なんだ」「絶対おいしいでしょ」とスタジオは大いに盛り上がっていた。秋篠宮殿下はこの放送を見ていたらしい。後日、横須賀在住の旧友に「悪いけど、ポテチパンを買ってきてほしい」と依頼した。

名物商品の「ポテチパン」
筆者撮影
名物の「ポテチパン」、税込みで230円。