校舎リノベで年間電気代が半減した

このような学校の断熱性能不足は、建て替えるしか方法がないのでしょうか。

じつは、学校の教室の高断熱化は、それほど大変なことではありません。比較的簡単に断熱改修することが可能です。

『断熱学校』では、天井裏へのグラスウール充填、内窓設置、日射遮蔽対策など、断熱リノベの方法が紹介されています。

たとえば教室では、

・天井裏に断熱材を追加する
・窓に内窓を設置する
・日射を外側で制御する
・CO2センサー付きのオンデマンド換気を導入する

といった対策が挙げられています。

これらは比較的簡便な工事で可能です。しかしながら、温熱環境とエネルギー消費に大きな改善効果をもたらします。

校舎だけでなく、体育館の改修も可能です。そして、体育館についても、経済的にも合理的な取り組みであることが文部科学省の試算で示されています。

「断熱性のない体育館 参考文献」に断熱工事を行った場合、エアコンの容量は1台あたり128kW超から70kW程度に、さらに、室内機の台数は、8台から5台に削減できます。

※想定は、東京に⽴地する延床⾯積930㎡の体育館

試算によれば、

・断熱なし:約280万円
・断熱あり:約140万円

と、年間電気代は、ほぼ半減。

グラフのように、15年後のエアコン更新時点で断熱改修費(エアコンの設置費用を含めて6600万円)の回収が可能で、40年間では約5500万円の経費削減になるとされています。

体育館の断熱投資の改修費用
竹内昌義、内山章、前真之『断熱学校』(鹿島出版会)より

ここで重要なのは、「断熱はコスト増」という既成のイメージは正しくないという点です。

エアコンは15年前後で更新が必要になります。その際、断熱が不十分であれば大容量機器を再び導入せざるを得ません。一方、断熱改修によって必要容量を小さくできれば、設備更新費そのものも抑えられます。

つまり断熱は、光熱費だけでなく、設備更新費も含めた総コストを下げるのです。

能登半島地震が突きつけた現実

学校は教育施設であると同時に、その多くは、災害時の避難所でもあります。

とくに体育館は、地域住民が最初に身を寄せる場所です。大規模災害が発生すれば、数百人規模の避難者が長期間滞在することもあります。

令和6年の能登半島地震でも、多くの被災者が断熱性能の十分でない体育館での生活を余儀なくされました。冷たい床に段ボールを敷き、毛布に包まって夜を過ごす様子が報じられました。

能登半島地震の直接死の死者数は228人。一方、災害関連死者数は、その倍以上の495人(2026年2月20日時点)に上っています。

そして、災害関連死と認定された方の死因は、34%が循環器系、33%が呼吸器系の疾患です。

災害関連死の死因の比率

体が寒さにさらされると、血圧や血管収縮、血液粘度、炎症反応などに影響し、心血管系にストレスがかかります。

同様に寒さは気管支収縮を誘発し、粘膜繊毛防御やその他の免疫反応を抑制し、局所的な炎症を引き起こし、呼吸器感染症のリスクも高めます。

当然、持病や食事に起因するところもあるでしょうが、避難場所の「寒さ」は無視できません。

この災害関連死者数の多さは、避難場所である公共建築物の性能の低さに起因する「人災」ともいえるのです。

話を戻すと、学校建築の「断熱」への投資は、経済合理性があるだけではなく、生徒たちの快適な学習環境の確保、さらには、災害などいざというときに多くの人の命を守ることにもつながるのです。