「学校こそ高性能に」という発想

対照的なのが、北米の状況です。北米の先進的な州、自治体では、「学校こそ高性能」するという発想で建築されています。

米国東海岸マサチューセッツ州で学校・保育園等の公共建築物の新築・改修、低所得者層の集合住宅の設計を行い、ウェントワース工科大学大学院で客員教授も務めるマサチューセッツ州認定設計士の岡田早代さんは、「北米では、学校こそ高性能にするという考え方があります」と語ります。

まず、「窓性能」です。

「学校建築にトリプルガラスのサッシを使うことは特別ではありません。先進的な州や自治体の学校では、ネット・ゼロ・エネルギーを目指すため、公共建築、とくに学校ではトリプルガラスのサッシを使う事が標準的な仕様になりつつあります。」(岡田さん)

日本では、前述の通り、アルミサッシ・シングルガラスが標準です。トリプルガラスというと、一部の超高気密・高断熱住宅の象徴のように扱われます。

樹脂のトリプルガラスのサッシ
筆者提供
樹脂のトリプルガラスのサッシ

背景にあるのは、単なる環境意識の高さではなく、経済合理性に基づく発想です。

「建設時に多少コストが上がっても、50年単位のライフサイクルコストで見れば、そのほうが合理的という考え方です」(岡田さん)

学校の冷暖房費や維持管理費は、日本と同様に税金で賄われます。

とりわけ寒冷地では、低断熱の建物は維持費が跳ね上がるため、結果的に自治体の財政を圧迫します。初期費用が上がっても、毎年のエネルギー支出が確実に下がるのであれば、長期的には総支出は小さくなる。

だからこそ、建設費だけでなく、将来にわたる光熱費まで含めて意思決定を行うのです。

北米では、公共建築の性能基準が州や自治体レベルで厳しく定められ、断熱性能や気密性能が設計段階から当然の要件とされている州や自治体が多く存在します。

岡田さんは続けます。

「日本では建設費の増加はすぐに問題になりますが、光熱費は“毎年のこと”として見過ごされがちです。しかし自治体財政の観点から見れば、エネルギーコストは確実に積み上がる固定費です。そこを減らすほうが合理的ではないでしょうか」

日本は構造的な問題を抱えている

日本では、学校などの公共建築の議論は、どうしても初期コスト(建設費)に集中しやすい傾向があります。

一方、断熱性能を高めることで削減されるはずの冷暖房費は、数十年にわたり分散するため、あまり意識されません。

建設費はその年の予算で評価され、光熱費は翌年度以降の経常支出として処理される。この制度的分断も、「安く建てること」を優先する構造を生んでいる一つの理由でしょう。

しかし本来、税金で維持する建物こそ、中長期的な支出を最小化する設計思想が必要ではないでしょうか。

高断熱化することについて、技術的な問題があるわけではありません。日本にも高性能な窓や断熱材は存在します。

それを「必要なコスト」と考えるか、「贅沢」とみなすか、根本的な考え方の違いがあるのです。

学校は、教育施設であると同時に、地域のインフラであり、数十年にわたって維持される公共資産です。

短期的な建設費を抑えることを優先するのではなく、本来は長期的な経済合理性で判断すべきなのです。