まずは「できること」から始めてみる
断熱改修は、省エネルギー対策であると同時に、教育環境の改善策であり、防災力の強化策でもあります。中長期的に見れば、経済合理性にもかなう投資です。
既存の学校建築の断熱性能を抜本的に引き上げていくことは、本来、国や自治体が計画的に取り組むべき課題です。
しかし、すべての学校を一斉に大規模改修することは現実的ではないかもしれません。予算の制約もあり、優先順位の調整も必要になります。
だからこそ、まずは「できることから始める」という視点が重要です。
その入り口として有効な手段として、『断熱学校』で紹介されている「断熱ワークショップ」という取り組みがあります。
これは、生徒や地域住民や保護者、教職員らが参加し、学校の断熱改修を実際に体験しながら行う活動です。
たとえば、
・天井板を外し、袋入りグラスウールを敷き詰める
・内窓を設置する
・日射を遮る工夫を行う
といった比較的実行可能な改修を、ワークショップ形式で行います。
プロの手を借りながらも、素人の生徒たちの改修で、教室の温熱環境は確実に改善します。写真は、「おかやまエネルギーの未来を考える会」というNPO法人の支援を得て行われたワークショップの風景です。
こういった取り組みの意義は、単に断熱改修コストを抑えられる点だけではありません。
学校は教育の場です。その学校を断熱するプロセスそのものが、環境教育にもなります。
また、大人たちにとっても、学校という公共資産を「自分たちのもの」として捉え直す機会になります。断熱という目に見えにくい性能を可視化し、地域全体で考える契機になるのです。
すでに実施している自治体がある
すでに、長野県、東京都葛飾区、宮城県仙台市など一部の自治体では、断熱ワークショップを主体的に実施したり、補助制度を設けたりする動きが始まっています。
こうした事例は、決して特殊なものではなく、他の自治体にも展開可能な取り組みです。
竹内教授は、“TTP”、すなわち既存の取り組みを「徹底的にパクる」ことを推奨しています。新たに手探りで取り組むよりも、既存の取り組みを「パクる」方が効率的であることは間違いありません。
自治体が、断熱ワークショップを支援することには、複数の意義があります。
第一に、比較的小規模な予算で温熱環境を改善できる可能性があること。
第二に、断熱性能向上の効果を地域が実感できること。
第三に、将来的な本格改修に向けた理解と合意形成の土台をつくれることです。
断熱は、建物の内部に隠れた性能です。しかしその影響は、子どもたちの学習環境や、災害時の生命環境にまで及びます。
既存校舎の断熱リノベーションを順次進めていくことは望ましい。その方向性に異論は少ないはずです。
その第一歩として、自治体が主体的にワークショップを実施する、あるいは地域の取り組みを後押しする。
そこから始めてみてはどうでしょうか。
学校が暑くて寒いことを「仕方がない」と受け入れるのではなく、改善できる公共資産として捉え直す。
その意識の転換こそが、健やかで安全な社会への入り口になるのかもしれません。
岡田早代(おかだ・さよ)
マサチューセッツ州認定設計士、 ウェントワース工科大学大学院客員教授、自然エネルギー財団研究員(建築の脱炭素関連)
2004年よりマサチューセッツ州で学校・保育園等の公共建築物の新築・改修、低所得者層の集合住宅の設計に従事。環境コンサルタントとしても活動している。


