外国人客が注目した「物語」
北川さんがそれまで前面に出していたのは、下町を巡る面白さや商店街ならではの体験だった。社会的な意義を押し出しても、選んでもらう理由にはなりにくいと考えていたからだ。
しかし海外の視聴者が熱狂したのは、体験の入り口にある「なぜここでなければならないのか」という理由だった。
布施という街が抱えてきた課題と、それに挑む宿泊施設という背景があってはじめて、体験そのものの価値が上がる。その順番に、気づかされた瞬間だったという。
軸を「体験」から「物語」へと転換し、現在は布施商店街や連携店舗の歴史、客室はもともと空きテナントだったこと、そんな「物語」の発信もSNSで行っている。
宿泊者数も徐々に回復。最近では単月で黒字化も達成し、2025年には年間1万人、海外からも44カ国・1500人以上が訪れた。
布施という街を舞台にした宿泊のあり方が、国内外の旅行者に受け入れられつつあることを示している。
「商店街の方のなかには、スーツケースを持った人が街を歩く光景そのものを喜ぶ方もいれば、メディア露出やロケの増加によって、布施の注目度が高まったことを歓迎する方もいます」
当時を「学生さんみたいな人たちが来た」と振り返っていた連携店の方も、今では「SEKAI HOTEL経由で取材も来るので、ありがたいですね」「発信してくれているおかげで、若い人たちが商店街に来るようになったと感じています」と話してくれた。
新しい人の波は、長年シャッターの増加を見守ってきた地元の人々の表情も、少しずつ変えている。
稼働率5割でも黒字になるワケ
SEKAI HOTEL 大阪布施の強みは、商店街に人を呼んだことだけではない。稼働率5割でも黒字化できる、「商店街×ホテル」というビジネスモデルそのものでもある。
SEKAI HOTEL 大阪布施は観光目的の利用が中心で、休日は満室になることが多い。一方で平日には空室が残ることもあるという。しかしこのホテルの特徴は、一般的なシティホテルほど高い稼働率を前提としなくても収益を立てやすい点にある。
「2025年9月から単月で黒字化し始めたのですが、その時の客室稼働率は50.5%でした。シティホテルさんだと、80〜90%くらいまで稼働率を上げないと黒字化しないことも多いと思うのですが、稼働率が5割程度でも黒字化できるのは、ビジネスモデルとしても強いです」
北川さんによれば、背景にはこのホテルならではの運営構造があるという。
空き家を改装して客室とし、入浴は銭湯、食事は地域の店舗と連携することで、自前で大きな設備を抱えずに済む。さらに、土地を所有せず、運営人員もフロントと清掃スタッフを中心に絞っているため、固定費を抑えやすい。
また街にある店や施設を生かすこのモデルは、コストを抑えるだけでなく、布施らしい体験を宿泊に取り込める点でも強みがある。こうした設計は、当初から掲げてきた「まちごとホテル」という思想に沿うものでもある。



