トヨタもユニクロもニトリも安すぎる
政治評論家ロバート・B・ライシュが「シュクレリが犯した間違いは、他の多くの人たちがウォール街や社内の重役室で気付かれないようにやっているのと同じことを堂々とやってしまったことだ」とコメントしたとおり、この事件は、ウォール街の金融プロフェッショナルと巨大上場会社経営陣の強欲的一面の代表事例として、行き過ぎた株主至上主義への批判者がよく引き合いに出します。
これと正反対なのが日本の優良企業、サラリーマン機関投資家、従業員という、良き日本人です。高い値段をつけても十分売れる商品を「お買い得価格」で売り、短期的なサヤ抜きで儲けるのは邪道とアクティビスト投資家を忌み嫌い、実質賃金が上がらなくても手を抜かず誠実実直に会社のために働く、これがバブル崩壊以降30年の日本を覆ってきたスタイルでした。
デフレ時代の日本で輝いている、消費者に近い身近な企業として、携帯電話のソフトバンク、衣料品のファーストリテイリング(ユニクロ)、家具のニトリ、などが思い浮かびますがこれらは皆、いい品・サービスを「バリュー価格」で提供して成功した企業、デフレ経済の申し子です。
トヨタの車もコンビニエンス・ストアというサービス業態も、日本企業のウリは「品質が良く信頼性が高い割に値段が安い」です。テレビ放送においても、米国なら当然有料コンテンツである映画やスポーツ中継が、日本では無料で観ることができます。
高品質すぎる日本の限界
日本は「お客様を困らせる値上げは悪」という横並び・同調圧力のおかげで、会社社員かつ消費者でもある多くの日本国民の実質賃金が上がらない時代にも、消費者余剰と政府補助金給付で、そこそこの豊かさを失わずに30年過ごせ、米国ほど格差が酷くない社会を作ってきました。
ACT(アリマンタシォン・クシュタール、以下ACT)より質の高い小売サービス業モデルを作れている(これはACT自身が認めています)セブンが日本の株式市場でEBITDA倍率7倍程度にしか評価されず、ACTが米国株式市場で10倍以上に評価されている理由は、セブンの利益率がさほど高くない中、日本のコンビニ市場が飽和して成長性が低いためです。
利益率の低さの要因の一つは、セブンがシュクレリのように「株主投資家のために利益を上げる」ことに貪欲でなく、顧客に大きな消費者余剰を提供しているからなのかもしれません。市場成長性の問題には、セブン、ローソン、ファミリーマートといった大手競合との激烈なシェア争いがあります。業界トップ企業だけにおいしい汁を吸わせないように、利益(=株主投資家の取り分)を削り戦う世界、つまり先行トップ企業といえども、享受できる「レント」余地が少ない飽和状態の業界であるという点が、米国市場との違いとして大きいのでしょう。

