1573年、織田信長によって浅井長政の居城・小谷城は攻め落とされた。歴史評論家の香原斗志さんは「NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』でもその様子が描かれたが、腹に短刀を突き刺した浅井長政の介錯を妻のお市の方が行っていた。ドラマとはいえ、あまりに歴史を無視した描写で唖然とした」という――。

「豊臣兄弟!」で描かれた、ありえない“お遊戯”

この日は主題曲が流れず、出演者のテロップはドラマの進行中に画面の下に流れた。ここぞというクライマックスで使われる手法である。「豊臣兄弟!」の第17回「小谷落城」(5月3日放送)。力が入っているのが伝わり、期待に胸が高鳴る。だが、それも束の間、筆者はあまりの展開に呆気にとられ、集中力を失った。いや、観ていられなくなった。

その理由は追って詳しく述べるが、一言でいえば、落城寸前という極度に緊迫した場面で、事実上の遊戯が行われたり、ファンタジーが滔々と語られたりするのを観て唖然とし、目を背けてしまったのである。

撮影=プレジデントオンライン編集部
秀長ゆかりの郡山市で開催中の「大和郡山 大河ドラマ館」(奈良県)。

NHKは「豊臣兄弟!」を「戦国時代をダイナミックに描く波乱万丈のエンタテインメント」と呼ぶ。「豊臣兄弟!」にかぎらず、大河ドラマはいつも娯楽性が高い。そうでなければ、日曜日の夜8時に、多くの視聴者をテレビの前に集めることなどできない。また、豊臣秀長のように、残された史料が多くない人物の生涯を描くには、フィクションにフィクションを重ねていくしかない。

その一方、「豊臣兄弟!」が歴史ドラマであるのも、これまでの大河ドラマと同様である。だから複数の歴史学者が時代考証を担当し、史実とドラマの整合性をたもつために、衣装から言葉遣い、風俗から人物関係までを細かくチェックしている。フィクションで構わないが、時代状況や、その時代を生きた人の生き方や考え方から乖離しないように監視する、ということだろう。

ところが、「小谷落城」で描かれたフィクションは、戦国時代の常識に照らして100%ありえない、現代劇に導入されたところで極めてお寒い、という救いようのないシロモノだった。