優れたリーダーに必要な要素は何か。独立研究者の山口周さんは「社会的文脈を読み取り、新しい価値観を提示する力だ。無印良品の成功にはそうした力を持ったリーダーの存在なしには語れない」という――。(第1回)
※本稿は、山口周『コンテキスト・リーダーシップ』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
※原稿内の売り上げ、店舗数等は執筆当時のものです。
価値観の変化に敏感だったココ・シャネル
社会的文脈とは、社会の価値観、文化、規範、倫理観などのダイナミズムによって形成される文脈のことです。
例えば、環境問題やジェンダー多様性の意識はここ30年で大きく変わり、多くの人は「30年前の感覚と同様に振る舞うことは不適切だ」と感じているでしょう。社会における価値観や規範のコンテキストに鈍感でいることは、時には命取りになりかねません。
20世紀初頭、ヨーロッパ社会は急速に変化していました。第一次世界大戦によって多くの男性が戦場に赴き、女性が工場や事務所に進出し、公共空間で行動することが日常になっていきました。女性の存在が「家庭の装飾」から「社会を支える主体」へと変わりつつある歴史的転換点に敏感に反応したのが、ガブリエル・ココ・シャネルでした。
1931年、ロサンゼルス訪問中に机に向かうココ・シャネル(写真=Los Angeles Times/UCLA Library/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
シャネルは、女性を男性の従属物として扱い、愛玩物として着飾らせるためのコスチュームが大嫌いでした。きらびやかな装飾、身体を締めつけるコルセット、歩行や仕事を妨げるドレス――それらは男性の歪んだ支配欲求を満たすための一種の折檻用具のようなものでした。
シャネルはそれを解体し、女性が自由に動き、考え、行動するための服を提案しました。それまで、女性用の衣服の素材とは考えられていなかった伸縮性のあるジャージー素材、直線的でミニマルなシルエット、機能性を重視したデザイン――それでいて、この上なくエレガントでラグジュアリーに見えるモードをシャネルは生み出したのです。
これらは単なる美意識ではなく、女性に「自分自身である」ことを許可する社会的宣言でもあったのです。
