※本稿は、山口周『コンテキスト・リーダーシップ』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
優れたリーダーと最高のリーダーの決定的違い
リーダーにとって不可欠なのは、いま自分が立っている「居場所」を単に空間的・組織的に理解することだけではありません。それがどのような歴史的文脈の延長線上にあり、どのような流れの中で形成されてきたものなのかを見極めることです。
歴史的なコンテキストを理解することによって初めて、自らの立場の制約や可能性が明確になり、どこに介入し、何を変えることができるのかが見えてきます。
さらに重要なのは、この歴史的コンテキストを「操作する」リテラシーです。過去を単に受け入れるのではなく、過去をどう語り直し、未来に向けた物語として提示するかによって、リーダーの行動の正当性や説得力が変わります。
歴史の流れを読み解き、それを意味づける力を持つ者だけが、組織や社会における自らの居場所を主体的に築き上げることができるのです。
優れたリーダーはマクロ・コンテキストを精密に読み取り、組織の舵取りをします。しかし最高のリーダーはマクロ・コンテキストを編集し、人々が奮い立つような物語を語ります。
そのようなリーダーの一人として、真っ先に思い出されるのは、第二次世界大戦において、ナチスドイツのファシズム全体主義と戦い、イギリス、ひいては自由主義世界を勝利に導いたウィンストン・チャーチルです。
チャーチルが下した歴史的決断
時計の針を1940年に戻しましょう。英国下院議会のあるウェストミンスター宮殿のある部屋では、戦時内閣による「ナチスドイツと宥和すべきか、開戦すべきか」というギリギリの議論が行われていました。
現在の私たちには、なかなか想像するのが難しいことですが、当時の英国国内では、ナチスドイツとは戦うよりも宥和を図るべきだという世論が圧倒的に優勢でした。理由は大きく三つあります。
一つ目の理由は、すでにヨーロッパ大陸のほとんどがヒトラーの軍門に降っていた、ということです。
オーストリアは2年前にナチスに占領され、チェコスロバキアは地図上から消滅し、ポーランドは粉砕、ノルウェー、オランダ、ベルギーはすでに降伏し、頼みのフランスはからっきし頼りにならず、前線の指揮官は信じられないようなペースで次々に白旗を掲げて、ドイツ軍はパリに向かって突進していました。要するにイギリスはヨーロッパで孤立無援になっていたのです。
