意見が食い違うTBSと高市首相
ナフサの在庫をめぐり、政府とメディアのあいだで論争も起きた。
2026年4月4日に放送された「報道特集」(TBS系)で、専門家の「間違いなく今の状況が続いたら6月には詰むんですよ、日本」という発言を紹介。SNS上で批判を受けたからか、報道特集は4月7日に番組の公式Xで「需要に供給が追いつかなくなり、日本にとって深刻な影響が出る恐れがある」という趣旨での発言だったと、番組内容を補足する投稿をしている。
これに対し、高市首相は4月5日に自身のXで、中東以外からの輸入拡大によって、ナフサ由来の化学製品の在庫期間は半年以上に延びるとの見通しを示した。
つまり、TBSと政府が正面から食い違っているというより、見ている地点が違うのである。前者は、川上のナフサ供給と現場の目詰まりが続いた場合に起きる機能不全を見ている。後者は、代替輸入や中間製品在庫まで含めた総量で、日本の耐久力を説明している。
だが、どちらの議論も結局は、代替調達が続くこと、物流が回ること、そして次の船が来ることを前提にしている。停戦後もホルムズの通航が平時の1割未満にとどまる以上、在庫は時間を稼げても、ルートが戻らなければ安心にはならない。
今回の危機で日本が本当に問うべきなのは、「ガソリン代はいつ下がるのか」「日用品はどこまで値上がりするのか」という問いのさらに手前にある問題である。
病院の滅菌資材、バスの燃料、包装資材、ごみ処理、化学原料を、危機の最中でもどの経路で回し続けられるのか。今回明らかになったのは、日本が危機時の物資調達をなお「値段」と「量」で語りがちで、「経路」と「優先順位」の問題としては十分に語ってこなかったという、より深い脆さなのである。
「安く手に入るか」は本質ではない
経済安全保障の観点で見ると、今回の危機で政府が真っ先に点検した対象は示唆的だ。さきほども紹介したように、経済産業省のタスクフォースが最初に確認したのは、ガソリンの値札ではない。ナフサに関係するものでいえば、医療機器の滅菌に必要な酸化エチレンガス、塗料用シンナー、自治体の廃棄物処理などだった。
ここに本質がある。危機のときに国家が最優先で守るべきなのは、消費者心理に直結する価格だけではない。病院が止まらないこと、ごみ収集車が走れること、食品や医療品の包装材が切れないことだ。
ナフサは単なる「プラスチック原料」ではない。生活必需品、医療資材、物流資材の背後にある基礎素材であり、見えにくいインフラなのである。
実際、資源エネルギー庁は元売り・輸入事業者に対し、系列内外や新規取引先も含めた供給を要請し、各地方経産局に専用の相談窓口まで設けた。これは逆にいえば、すでに市場の自動調整だけでは十分でない局面に入っていることの証左でもある。政府が本気で見ているのは、「安いかどうか」より「止まらないかどうか」だ。

