最悪のシナリオは「高い石油」ではなく「止まる日本」
最悪のシナリオは、原油が高いことそのものではない。病院で必要な滅菌資材が細る。路線バスの燃料が偏在する。ごみ処理や包装資材が目詰まりする。企業は原料を確保できても、保険や船腹や通航許可が追いつかず、供給が面でつながらない。つまり、日本という国家の平常運転が、外部の許可と偶然の物流に左右される状態である。
戦前、日本は石油の9割以上を輸入に依存し、全面禁輸によって一気に戦略的選択肢を失った。歴史の教訓は、危機になれば戦争になるという短絡ではない。供給ルートを握られた国は、価格より先に選択肢を失うということだ。
「安ければ得」という論理は平時ではかなり正しい。だが、有事にはそれだけでは国家は回らない。いま日本が議論すべきなのは、ナフサが何カ月分あるかという数字の勝ち負けではない。次の船を、次の原料を、次の生活基盤を、どのルートで確実につなぐのか――その設計図こそが、これからの経済安全保障の本丸である。

