ラーメン1杯1000円を超えるな

【松田さん】こうした、日本人が陥りがちな「モノの値段は投入したコストで決まるべきだ」という考え方も、じつは立派な経済理論で「労働価値説(*4)」と呼ばれています。コストを積み上げた「適正価格」を、はるかに上回る価格で売るのは「儲けすぎ(超過利潤)でけしからん!」って。

【アワタニ】「ラーメン1杯1000円を超えるな」とか。

【松田さん】そうそう、まさに昔のソ連や中国などが一生懸命やろうとして、ことごく失敗したやり方で、いわゆるマルクス経済学(*5)の考え方ですね。

【アワタニ】なんで失敗したんですか。

【松田さん】「コストから算出した適正価格で売りなさい」って決められたら、コスパ最高で行列が途切れない店ができたり、「なんか高い」とか言われて商品が大量に余ったりを繰り返しちゃうからです。計画経済(*6)などと言って政府が需要と供給をコントロールしようとしても結局、うまくいかない。価格変動による需給調整機能が働かず、非効率になりすぎたから市場経済との競争に負けたのです。

日本人が間違えてはいけないこと

【アワタニ】まあ、選んでお金を出すのは消費者ですものね。

【松田さん】それ以上に「超過利潤」などと言って儲けることが悪のようになると、誰も頑張っていいものをつくったり儲けようとしたりせず、サボってばかりになったという面も強いですが。

【アワタニ】ダメな人が量産されたのか。なかなかポンコツな感じの理論ですね……。

【松田さん】そうは言いますけど、一本筋が通っていて日本人には比較的しっくりくる考え方なんですよ。だから「ラーメン1杯1000円を超えるな」が定着していたわけで。

【アワタニ】たしかに……。

【松田さん】話を戻すと、コメの場合は主食だから「買わなきゃいいじゃん」とはなりません。でも価格がどんどん上がったら、ラーメンやソバを食べたり、パンを食べたりするようになって需要が減り、需要と供給が釣り合うところで価格が安定するのが本来のしくみです。あまり杓子定規に原理原則で語れない難しさもありますが、基本はそうなんです。日本人は、ここをすぐ間違えちゃうんで。

*4 労働価値説
商品の価値は、それを作るのに必要な労働量で決まるという考え方。マルクスが提唱した経済理論の基礎概念。現代の主流経済学では需要と供給で価格が決まるとされる。
*5 マルクス経済学
カール・マルクスが提唱した経済学。資本主義の矛盾を分析し、労働者による革命と社会主義への移行を主張した。日本では戦後、大学で広く教えられていた。
*6 計画経済
国が経済活動を計画的に管理するしくみ。社会主義国家で採用された。政府が生産量や価格を決める。ソ連や中国で実施されたが、効率性の問題から多くの国が市場経済に移行した。