資材が枯渇する“3つの理由”

そもそも、なぜこれらの医療資材が枯渇してしまうのでしょうか。

その原因は、やっかいなことにひとつではありません。

① 樹脂原料「ナフサ」価格の高騰

イラン情勢の緊迫化にともなって、樹脂の主原料である「ナフサ」の供給がひっぱくしていることが一点。ナフサ価格は、3月に入ってわずか数週間で1トンあたり1100ドル前後と、短期間で1.6倍に暴騰しました。

さらに韓国政府は27日午前0時からナフサの輸出を5カ月間全面禁止し、全量を国内供給に回す決定をしました。中東産ナフサに依存する日本は、輸入の12%を韓国に頼っていたため、全体供給の8~10%が影響を受けるといわれます。

② 中国の輸出規制

もう一点、さらに追い打ちをかけるのが、中国によるエネルギー安保を理由とした輸出規制です。

先ほど例示した医療資材、これらは日本の工場で「成形」や「裁断」をされていますが、その元となる「巨大なプラスチックの布(不織布)」や「樹脂のシート」自体は、中国の巨大なプラントで安価に大量生産されたものを輸入しています。この加工される前の「元の反物たんもの」の状態を「原反げんたん」と呼びますが、これが入ってこなくなれば、日本で医療資材が製品化できなくなってしまうのです。

つまり日本の医療材料メーカーが依存してきた安価な樹脂原料や中間材が、文字通り「物理的に」届かなくなっているのです。

③ 「4月はじまり」という日本の商習慣

さらにもう一点。この危機に拍車をかけているのが、日本企業の「3月決算」という商習慣です。

年度末、多くの医療機関や卸業者は、経営効率化の名のもとに在庫(棚卸資産)を極限まで絞り込んで、キャッシュフローを改善させようとします。一年で最も無防備になった今この瞬間に、これらの供給断絶が直撃すると言ってもいいでしょう。

資材不足で何が起こるのか

たとえ原油価格が落ち着いても、一度不安定になったサプライチェーンが復旧するには数カ月かかるとも言われています。医療現場は日々待ったなし。「モノがない」という現実がじっさいに到来してからでは遅いのです。

救わねばならない命が目の前にあるのに、「モノがないから救えない」ということが、このまま手をこまねいていると本当に起きてしまうのです。

もちろんこうした事態は「今日明日、ただちにすべての治療が止まる」というパニックで訪れるわけではありません。しかし、私たち医療者は、今まで「あたりまえ」だった医療の利便性や効率が、これまでどおりにすべての人が享受できなくなるという形でやってくるとの危機感をもっています。

たとえば、手術や検査の現場では、緊急性の低い症例について、資材の在庫状況を見きわめながら日程を再調整する、ということは早晩検討されはじめることでしょう。もちろんこれは治療をあきらめさせることではなく、一刻を争う救急患者や重症患者に、かぎられた医療資源を確実に届けるための方略です。

この事態に一番不安を募らせているのが、人工透析を受ける患者さんです。こうした患者さんにとっては、透析回路(血液が通るチューブ)やダイアライザー(腎臓機能を果たす筒状の装置)の供給不安は死活問題だからです。

人工透析の装置
写真=iStock.com/saengsuriya13
※写真はイメージです

ここでも施設間での資材の融通、あるいは供給が安定している代替品への速やかな切り替えなどで対応すべく現場では日々知恵をしぼっているに違いありません。

在宅医療の現場でも同様。同一個人が使用し、かならずしも毎回滅菌した新品に交換する必要のない物品、トラブルなく交換の必要が差し迫っていない資材については、節約できる方法を模索することになるでしょう。