経営層と現場の価値観が衝突

たとえば、施工部門の人々は「図面通りに、事故なく、納期通りに完成させる」ことを何よりの誇りとしていました。高速道路の料金所にETCの機械を設置する、防災無線を納入する。そうした仕事において、「約束を守る」ことが彼らのアイデンティティでした。

一方で施工管理の仕事は、現場監督のようなものです。「この現場でETCの工事を1カ月以内にやらないといけない」という目標に対して、必要な物資を発注し、協力会社を探し、事故なく工事を完了させる。特に現代は事故に厳しい時代ですから、「安全第一、納期厳守」が何より重要です。

ところが、経営層が進めようとしていた「変革」は、「約束以上の価値を出せ」「新しい提案をしろ」という方向性でした。これは施工管理の現場の価値観と真っ向から衝突していました。

ビジネスモデルと歴史の問題だった

現場が変革に後ろ向きだったのは、意欲が低いからでも、能力が足りないからでもありません。現場なりの合理的な理由があったのです。「言われた通りにやる」ことがこれまでずっと正しいとされてきたのに、突然「もっと創造的になれ」と言われても、戸惑うのは当然です。

当時、社内では「施工のやつらは頭が固い」「施工が動かないから変革が進まない」と言われていました。しかし調査を進めると、個人のマインドの問題ではなく、ビジネスモデルと会社の歴史が、そうした行動様式を生み出していたことがわかりました。

大川内直子『世界のビジネスエリートが身につける教養 文化人類学』(SBクリエイティブ)
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そうした「文化」を理解しないまま「変われ」と言っても、変わるはずがありません。こうした発見を経営層に報告し、部署ごとに新規事業への取り組みの強度を変えていく必要があるという方向に、議論が変わっていきました。

組織の中にも「儀礼」があります。朝礼、定例会議、年度末の打ち上げなど、一見すると形式的な行事に見えても、そこには組織のアイデンティティや価値観が凝縮されています。そうした「儀礼」は組織の内部にいる人にとっては日常的に行われており、特に「儀礼」と認識されているわけではありません。しかし、文化人類学者にとっては組織の特徴が色濃く表れる興味深い営為なのです。

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