コカ・コーラのお茶が売れなかった理由

② コカ・コーラの事例

また、飲料メーカーのコカ・コーラが中国市場でボトル入りのお茶を販売しようとしましたが、失敗しました。なぜコカ・コーラのお茶が中国であまり売れないのかを解明するため、文化人類学的な調査が実施されました。

文化人類学をはじめとした人文系の知見を重視する、デンマークのコンサルティングファーム「レッド・アソシエイツ」が調査したところ、興味深い文化的な違いが浮かび上がりました。

中国人にとってのお茶は、余分な要素を削ぎ落とし、澄んだもの、純粋なものを楽しむもの。それがお茶の美学です。中国人にとって、お茶を飲むことは「引き算」の思考といえます。

一方、アメリカの飲料文化は「足し算」の思考です。ハンバーガーにはコーラ、砂糖も炭酸もカフェインも、おいしいものをどんどん加えていくのと同じで、お茶も砂糖やカフェインを追加していました。

ですから、「引き算」の文化で育った中国人からすると、コカ・コーラのお茶は「余分なものが入りすぎている」と感じてしまいます。この文化的なギャップが、コカ・コーラのお茶の中国市場での苦戦の一因でした。

そもそも「飲み物」というものを、足し算で捉えるのか、引き算で捉えるのか。アンケートで「なぜコカ・コーラのお茶を飲まないのですか?」と聞いても、こうした深い文化的背景は出てきません。実際に家庭に入り込み、彼らがお茶や飲み物とどう付き合っているかを観察して初めて、見えてくるインサイトなのです。

コーラとフライドポテトとハンバーガー
写真=iStock.com/ValentynVolkov
※写真はイメージです

「企業組織」も調査対象になる

調査の対象は「消費者やユーザー」だけではありません。最近では、「企業組織」そのものの調査も増えています。

「なぜ我が社では、新しいイノベーションが起きないのか」
「なぜ部署間の対立が消えないのか」
「なぜ変革の必要性を誰もが認識しているのに、何も変わらないのか」

経営者が頭を抱えるこうした問題も、文化人類学者が組織の中に入り込むことで、解決の糸口が見えてくることがあります。

私自身、あるメーカーで調査をしたことがあります。その会社は、BtoBで企業向けの機器を納入するビジネスをしており、業績は好調でした。しかし経営層は、このままでは10年先、20年先に通用しなくなると危機感を持ち、お客様との接点から新しいビジネスの種を見つけ、新規事業を生み出していこうという方向に変わろうとしていました。

会議に出席し、休憩時間に雑談し、彼らの仕事ぶりを観察する日々。そこで見えてきたのは、組織図やマニュアルには書かれていない、その会社特有の「掟」でした。