グーグルやインテル、マイクロソフトなどテクノロジー企業で活躍する“文系人材”がいる。文化人類学者でアイデアファンド代表取締役の大川内直子さんは「ビジネス人類学は1980年代から盛んに行われ、1990年頃には世界の名だたる企業が文化人類学者を社内に抱えていた」という――。

※本稿は、大川内直子『世界のビジネスエリートが身につける教養 文化人類学』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

Intel本社
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世界的デザインファームが招き入れた「専門家」

人間が言語化できていない潜在ニーズや、無意識の行動様式を明らかにするために、文化人類学の手法は極めて有効です。

その価値にいち早く気づいた企業の1つが、世界的なデザインファームであるIDEO(アイディオ)です。IDEOは、アップルの初代マウスをデザインしたことで知られる、アメリカのデザインコンサルティング会社です。製品デザインだけでなく、サービスデザイン、組織デザイン、戦略コンサルティングなど、幅広い領域で世界中の企業をサポートしています。「デザイン思考(Design Thinking)」という言葉を世界に広めた立役者でもあります。

IDEOは、「人間中心設計(Human-Centered Design)」を徹底しています。技術的に優れているだけでなく、使う人間にとって本当に意味のあるデザインを追求する。そのためには、ユーザーが置かれている「文化」そのものを理解しなければなりません。

デザイナーの思い込みや、表面的なユーザー調査だけでは、本当のユーザー理解には到達できません。そこでIDEOは、いち早く文化人類学者をチームに招き入れました。

グーグル、インテル、マイクロソフト…

文化人類学者は、ユーザーの自宅や職場に入り込み、彼らの日常生活を観察します。彼らがどのように空間を使っているか、どんな物に囲まれて暮らしているか、どのような人間関係の中で生きているか。そうした「文化的文脈」を理解することで、表面的なニーズの向こう側にある、本当の課題やチャンスを発見できます。

ビジネス人類学は1980年代から盛んに行われ、世界中のデザインファームやテクノロジー企業が、こぞって文化人類学者を採用するようになりました。グーグル、インテル、マイクロソフト、ゼロックス、ノキアなどなど。IDEOもそうした1980年代のビジネス人類学の広がりの中で、文化人類学の手法を効率的に取り入れることに成功した企業の1つです。

1990年頃には世界の名だたる企業が、文化人類学者を社内に抱えていたことがわかっています。この動きはIT企業だけでなく、ゼネラルモーターズ、ロレアル、フィナンシャル・タイムズなど幅広い業界に広がっています。

さまざまなビジネス課題に文化人類学者たちがどうアプローチしてきたかをまとめた、ジリアン・テットの『Anthro Vision』から2つの例を見てみましょう。