「モテるオスゴリラ」の条件
では、逆にメスから選ばれる「モテるオス」の条件とは何でしょうか。
一般的には、体が大きくて力が強い「強さ」や、子供の面倒見が良い「イクメン」などの要素が挙げられます。しかし、長年ゴリラを観察してきて分かった究極の条件は、意外にも「グルメであること」でした。
マウンテンゴリラの主食は草や木の皮ですが、その中でも特に栄養価が高く、美味しい植物が群生している場所を知っているオスが、圧倒的にモテるのです。具体的にはジャイアントセロリやベリー類、旬のたけのこなどの植物や果物です。
ハーレムには縄張りがないため、森の中を移動しながら食事場所を探さなければなりません。たとえば、ダメなオスは、メスたちを歩かせ続けたのに、食べ物を見つけられないこともあります。一方で、森の音を聞き分け、他の群れがいない安全で豊かな食事場所へと群れを導くことができるオスには優れたリーダーとしての資質があり、メスからモテるのです。
美味しいものをたっぷり食べさせてくれるオスには、自然とメスたちがついていきます。一方で、精力絶倫であることは必須条件ではありません。実はゴリラのペニスは勃起時でも約3センチと非常に小さく、他の動物のような精子競争もありません。
身体的な性豪であることよりも、群れ全体をひもじい思いにさせない「甲斐性」こそが、オスゴリラの最大の魅力なのです。
かつては人間も「目」で恋愛をしていた
ゴリラの取材を続けていて最も感動するのは、彼らが言葉を持たない分、「目」で雄弁に語りかけてくることです。人間とゴリラが進化の過程で分岐したのは約800万~1000万年前と言われています。「ヒトはいつ言葉を獲得したのか」というテーマについてはさまざまな議論がありますが、5~7万年前、あるいは20~30万年前からだと言われています。
つまり、人類の歴史の大部分において、私たちもゴリラと同じように、目や表情、仕草だけでコミュニケーションを取っていたはずなのです。
私がルワンダで観察していたあるメスゴリラは、出産した直後に、私の目の前まで赤ちゃんを抱いて見せに来てくれました。彼女はハーレムの中での地位が低く、なかなかいじめられて苦労していた個体でした。
私は撮影しながらずっと彼女のことを心配していたのですが、彼女はその視線を感じ取っていたのでしょう。「もう大丈夫よ、赤ちゃんができたから」と報告するかのように、私の目をじっと見つめてきました。その瞬間、言葉を超えて心が通じ合ったと感じました。
現代の人間社会では、SNSやマッチングアプリなど、文字やデータだけのコミュニケーションが増えています。しかし、私たちの中には、かつて800万~1000万年以上もの間、目で見つめ合い、心を通わせていた記憶が眠っているはずです。
ゴリラの姿は、私たちが忘れかけている「対面して目を見ること」の重要性を、静かに教えてくれている気がします。



