意外と“あざとい”メスゴリラの駆け引き
オスのアプローチが直球であるのに対し、メスゴリラの駆け引きは非常にバリエーション豊かで、人間から見ても「あざとい」と感じるほど巧妙です。
専門用語で「ソリシット(誘惑)」と呼ばれるこの行動には、それぞれのメスの個性が色濃く出ます。最も基本的なのは「見つめる」ことです。ゴリラの世界では、じっと目を見つめ合うことが好意のサインになります。
それだけではありません。寝ているオスの鼻先にわざと枝をちょこんと投げたり、通りすがりにお尻に顔を近づけたり、オスの豊かな胸毛に自分の足を乗せたりすることさえあります。
さらに高等なテクニックとして「焦らし」があります。オスからの誘いを受けて、一度は近くに行くものの、わざと素っ気なく背を向けて離れていくのです。これによってオスの狩猟本能を刺激し、さらに強く自分を求めさせようとします。
現地のトラッカー(案内人)たちは、こうしたやり取りを「ネゴシエーション(交渉)」と呼んでいます。ハーレムにおいては、オスが一方的に相手を選ぶのではなく、メスが主導権を握って交渉し、合意形成を図っているのです。
「高齢のメス」がモテまくる意外な理由
ゴリラのハーレムにおいて、われわれ人間から見てもっとも興味深い現象の一つが「高齢のメスがモテる」という事実です。
人間社会の常識で考えれば、若いメスの方がオスからの人気が高いように思えるかもしれません。しかし、若いオスが独立して新しいハーレムを作る際、パートナーとして選ぶのは、しばしば母親ほど年の離れたベテランのメスなのです。これには明確な理由があります。若いオスには、群れを統率するための経験と知恵が不足しているからです。
高齢のメスは、長年の経験から「群れのマネジメント能力」に長けています。メス同士の喧嘩を仲裁したり、危険を察知して移動のタイミングを促したりと、若いリーダーを補佐する「女房役」として機能します。
また、ゴリラには人間のような閉経がありません。死ぬまで現役で子供を産み、育てることができます。つまり、高齢メスは繁殖能力を維持しつつ、子育てのノウハウも熟知し、さらには組織運営のスキルまで持っている「スーパーキャリアウーマン」なのです。
特にオスにとって、これほど頼りになるパートナーはいません。場合によっては、ハーレムのなかでオスよりも高齢のメスが力を持つパターンも少なくありません。ゴリラの世界では、若さという一過性の価値よりも、経験と知恵という実質的な価値が重んじられているのです。

