中年の危機は成功パターンが通用しなくなるとき
NPBでの経験を通じて、私(中竹)は大切なことに気づきました。転移力、つまりこれまでの経験知を別の領域でも活かせる力には、実は大きな罠があることに気をつけなければなりません。その罠とは、自分の成功パターンへの思い込みです。
「大学ラグビーでは日本一になった」「早稲田を優勝に導いた」。
もし私がそんな過去の実績での成功パターンにしがみついていたら、プロ野球選手たちとの関係は築けなかったでしょう。
あくまで、すべての事象は個別具体的なものであり、それは常に流動的な文脈の中で、私たちは生きているということ。この当たり前のことを、私たちは成功体験を重ねるほど忘れてしまいがちです。
これは「中年の危機」と同じ構造で、これまでの成功パターンは通用しないことが往々にしてあります。若い頃のやり方では部下がついてこない。過去の実績が今の評価につながらない。「俺の時代はこうだった」「昔はこれで成功した」。そんな言葉が口をついて出てくるとき、それは器が固まり始めているサインかもしれません。
新しい環境に合わせて「翻訳」していく力
中年の危機を乗り越えられる人とそこで止まってしまう人の違い、それは過去の成功パターンを手放せるかどうか、つまり器を広げ続けられるかどうかにあるのだと思います。
これは「アンラーン」の概念に近いでしょう。自分の過去の輝かしい成功体験を疑い、思い込みを捨て、新たな考えを取り入れていくことです。詳しくは私が監訳した『アンラーン戦略』(バリー・オライリー著、ダイヤモンド社刊)を参照ください。
海上保安庁特殊救難隊の稲葉健人さんが「救えなかった現実があるのに、頑張ったで終わるわけにはいかない」と言い続けるのは、成功体験ではなく、葛藤や挫折も含めてすべてを受け入れているからでしょう。華やかな武勇伝がなくても、報われない経験から学び続ける。
その姿勢こそが、器を広げ続ける秘訣なのかもしれません。
転移力の本質は、成功体験をそのまま持ち込むことではなく、その成功の「本質」を見極め、新しい環境の文脈に合わせて「翻訳」していく力です。そしてそれは、中年になっても、いや中年だからこそ必要な、器を広げ続ける勇気なのかもしれません。
では、個人だけでなく組織の器はどうでしょうか。組織もまた、過去の成功パターンにとらわれることがあるのではないでしょうか。


