購入した瞬間、価値が倍になる時計

〈ロレックス〉

2026年1月、ロレックスは全世界で平均約7%の価格改定を敢行した。

ステンレススティールのサブマリーナ 124060は、ついに定価1万50ドル(約150万円)の大台を突破。GMTマスターII 126710は1万2000ドル(約180万円)、デイトナ 126500LNは1万6900ドル(約253万円)、へと引き上げられた。

では、二次市場ではどうか。

まず、サブマリーナ 124060。実際の取引が行われる、高級時計専門の通販サイト「Chrono24」上の実勢価格は1万1500ドル前後(約172万円)。定価の1万50ドルを約15%上回る水準だ。

GMTマスターII ペプシは、2万ドル前後(約300万円)――定価(1万2000ドル)の約1.7倍が相場として成立している。

デイトナ 126500LNにいたっては、定価の約2倍、3万ドル(約450万円)を超える出品が並び、中にはそれをゆうに超え、4万ドル近くで出品されているものもある。

つまり、正規店で買えた瞬間に、これらの時計は定価以上の価値を纏うことになるのだ。

そして、高級時計の市場平均価格をリアルタイムで教えてくれる「WatchCharts」のデータによれば、その価値は日を追うごとに高まっている。

ただし、ここに現代のロレックス市場の複雑な陰影がある。

2022年のピーク時、デイトナは5万ドルを超えていた。そこから約37%下落し、現在の3万1000ドル台に落ち着いた。

サブマリーナも、ピーク時には定価の3倍近い水準まで高騰した後に調整が入った。

coronet.orgの分析が指摘するように、2026年現在の水準は、パンデミック前の2017年から続いていたトレンドラインの延長線上に「正確に」乗っている。あのバブルがなければ、いまの価格が「あるべき場所」なのだ。

この数字が物語るのは何か。

それは、ロレックスは「通貨」であるということだ。

だが通貨にも為替レートがある。常に右肩上がりではない。

例えば、デイデイト40 228238(イエローゴールド)に代表されるゴールドモデルは、二次市場が定価を下回るという、ロレックスでは珍しい逆転現象が生じている(ただし、グリーン文字盤のような希少ダイヤルは別)。

しかしそれは、「どこに持っていっても値が付く」という通貨としての根源的な信頼を、揺るがすものではない。

世界のどの都市でも、ロレックスは換金できる。傷が付いても、箱がなくても、である。その「流動性の厚み」こそが、ロレックスが数百万円の価値を持つ真の理由であり、スマートフォンの時刻表示には絶対に宿らない力なのである。

「お金があるだけ」では買えない世界

〈パテック フィリップ〉

パテック フィリップの世界に入ると、数字の次元が変わる。そしてその数字の落差に、このブランドの「哲学」が映し出される。

トップブランドのブティックが並ぶビバリーヒルズ、ロデオドライブにあるパテックフィリップの店舗
写真=iStock.com/Walter Cicchetti
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ノーチラス 5811/1G。現行のホワイトゴールドモデル。米国での正規定価は約8万9767ドル(約1350万円)。これだけでも十分に高額だが、二次市場の現実はさらに別世界にある。

WatchChartsの2026年2月6日時点のデータによれば、市場価格は16万1651ドル(約2425万円)。定価の約1.8倍。正規店で購入できた者は、その瞬間に約7万ドル(約1050万円)の「見えない資産」を手にしたことになる。

かつての5711はもっと凄まじかった。

定価約3万5000ドルの時計が、15万0000ドル超で取引されていた。定価の4倍以上。それは「時計」の値段ではなく、ある種の「入場券」の値段だった。

パテック フィリップの正規店で購入履歴を積み重ね、信頼を勝ち取り、ようやく「あなたにお売りできます」と告げられる。その行程そのものが、すでに一つの人生の勲章なのだ。