「軍隊による反政府デモの鎮圧」が想定されている
国家緊急事態宣言の危険性はさらに2点ある。
第一に、その発動条件が防衛に限定されず、治安・災害・資源というようにあらゆる状況に拡張可能な形で一般化されている。
特に、治安を加えていることは、反政府デモを、政府が軍隊を導入して鎮圧するという、トランプ政権が例証している横暴を日本でも許すことになる恐れを抱かせる。
現在の自衛隊法は防衛出動に加えて治安出動も認めているが、これは「自衛隊は軍隊ではない、警察類似の実力組織だ」という「9条が強いる嘘」の結果、自衛隊の法的地位が曖昧化されているためであり、9条改正で国防軍を警察とは異なる軍隊として明認するなら、国防軍を防衛以外の目的で安易に首相が使える暴力装置にすべきではない。高市は「国防軍」という言葉を使って「勇ましい」ふりをしているが、自衛隊を「国防軍」という軍隊として明認することがもつ重大な法的意義を理解していないようである。
緊急事態宣言時には「基本的人権を停止」できてしまう
第二の危険性はさらに重大である。高市私案関連改正部分の5項は「この憲法が国民に保障する自由と権利は、国家緊急事態宣言発出時には、法律の定めるところにより、一定の制限を受ける」としている。
これは日本国憲法の立憲主義的人権保障システムを根幹から掘り崩すものである。
日本国憲法は基本的人権を法律によっても侵犯できない基本権と定め、それを侵犯する法律に対しては違憲無効と宣言する権限を裁判所に与えている。
しかも、憲法96条はかかる基本的人権保障も含めて憲法規定の改正手続は通常の法律を制定する国会の立法手続よりもはるかに高いハードル(衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成による発議と国民投票による承認)を設定している。
しかし、国家緊急事態宣言を発出すれば、かかる基本的人権が「一定の制限」を受けるのみならず、「一定の制限」とはいかなる制限かも「法律の定めるところにより」決められるとなると、これは首相と与党議会から成る政府が、成文硬性憲法としての日本国憲法の下での立憲主義的人権保障システムを通常の立法過程を通じて簡単に掘り崩せることを意味する。

